四年前に交わした約束をあの学生さんはまだ覚えているだろうか。あのとき止まった時間が動き出すことはあるのだろうか。忘れられていても仕方ないし、こちらで動ける見通しが立ったとしても、いちど中断した計画を動かすのはひどく難しい。そもそも、あんなふうに止まってしまった時間を、いったい誰がどんなかたちで動かせるというのだろう。しかしながらそう、望みは捨てない。
図版の作り直しに手こずる。漢字制作半日。初顔合わせのお客さんと軽い打ち合わせをして、そのまま夕食をご一緒する。こういうカジュアルな流れはひさしぶり。ものづくりの核心についてがっつり話ができて良かった。
春が近いせいか、食事のお誘いをいただいたりお誘いしたりという機会が徐々に増えてきた。ここ数年はTP明朝にかかりっきりで、ほとんど外部との接触を断っていたような状態だった。次の種まきをしておかなければいけない時期でもあるし、そろそろ腰を上げて動き出そうと思う。
小さな鍵が大きな扉を開ける。きょう読んだ本に掲げられていたトルコの諺。もうひとつ、きょう読んだ漫画『ラーメン食いてぇ!』にも通じる示唆に富んだことわざだ。始まりにこそ物語はある。
お昼まえにレタースペースに行き、書体見本の図版をつくりなおす。1200dpiのプリンタで原寸出力して、細い線の見え方を確認する。軽い昼食をとって夕方まで漢字制作。夜はおでんを腹いっぱい。
むかし治療した奥歯の一部が欠けてしまい、昼休みに歯科医院へ。レントゲンを撮って麻酔を打ってあれよあれよというまに大がかりな治療がはじまった。いちばん麻酔がききにくい部位なので痛みは覚悟して下さいと前おきされてびびりながら臨んだが、それほどでもなかった。麻酔なしでやった喉の切開手術とくらべたら何ということもない。
迅速に対応してもらったツールの新機能は、応用範囲が広くていろんなことを試したくなる。そのため書体の制作をたびたび中断して妄想にふけってしまうが、新たな気づきもいくつかあった。生産性と創造性のバランスは、つねに重要かつ困難な課題である。
きのうお昼に鳥よしに入ったら、あちこちから射すような視線が飛んできた。どうやらママさん送別会で貸し切りだったようだ。そんな獣を見るような目つきをしてはいけません。同日、駅前のせんべい屋さんで試食させてもらっていたら、「お客さん、以前ミスタードーナツによく来られてましたよね。実はわたし、あそこでバイトしてたんですよ」と店員さんから声をかけられた。ひえ〜〜。女性の眼に二度たじろいだ桃の節句であった。
午後からグラフィックデザイナーの仕事場訪問で代官山へ。たっぷり二時間、書体とデザインの話をする。すぐれたデザイナーはたいていことばの良き使い手だが、まさしくきょうもそのことを実感した。明晰な思考なくして効果的なデザインは生まれない。
まとまったかたちで個人の仕事を見ることで得られる気づきは、デザイン年鑑で大量の作品を見るよりはるかに多い。偉大な仕事を残した人の作品集は、ちょっと高価でも若いうちに手に入れて、ときおり眺めては思いを新たにすることをお勧めする。敬して遠ざけるのではなく、どこまでも近づくために。