書体のアイデアについて可否の判断を下しにくいのは、試作した文字の品質がよほど高くないと筋の良し悪しが分からない場合が多いからである。アイデアは変わらないのに、文字を磨いていく過程でふいに目の前が開けるようなことがよくある。この経験は、幼いとき夢中になった泥だんごづくりに似ていなくもない。向かいの鋳物屋さんの土でつくった泥だんごはとくに美しく、親があきれるほど磨いて、半透明になった球体をためつすがめつ眺めたものだ。磨けば玉、磨かねば土塊(つちくれ)。

いま試作している書体を極端な方向に推し進めていくと、あるフォントに近づいていくことが分かってきた。玄人筋が一顧だにしないフォントだが、意欲的な取り組みをしていたんだなと今さらながらにして思う。

五年前お蔵入りにした試作書体を元にデザインを展開する。一気に極端な形にもっていくのは難しいので、常識的な文字形態との距離を測りながら、離れては戻しを繰り返す。足がかりになるデザインが出来たら、そこからもういちど跳び上がれないか試すつもり。

以前から温めていた書体ファミリーのアイデアを今回の案件で実現できないか試してみたところ、ぜんぜんうまくいかなかった。一方、新人に書かせていた書体の習作がいい感じになってきた。こちらは次の段階に進められそうだ。

来月から制作に入る外部案件の書体スケッチ。このカテゴリーで使いやすいフォントをつくるのは容易ではないが、うまくいけば価値ある取り組みになる。および腰にならず、最初は極端なところから攻めてみたい。

新人用の机を入れるため、私が使っている作業机をセットバックした。単なる後退ではあきたらず、机と本棚の配置をいろいろ変えてみた結果、部屋の角に机を密着させるもっともコンパクトなかたちに落ち着いた。引き続き本と資料の整理にあたる。

ひとつ仕事の区切りがついたので、新年度に向けて書類の整理をおこなう。問題は本だ。周囲に置き場がなく、二階の図書室はすでに満杯で、机や棚からあふれた本の行き場が見あたらない。くりかえし読んで並べて使ってこその本。仕舞い込んでしまったらそれこそお仕舞いだ。本とのつきあいは読み終えてから始まる。

試作を開始してから三週間、ひらがな五十音が完成した。この方向のデザインに脈があるかどうかを調べるという所期の目的は果たせたので、ここでいったん切りあげることにする。無理筋のアイデアかと思っていたが、実用性と審美性の両面で、及第点以上のものができそうだ。

脈絡のありなし、抑揚のあるなしについてひと通りの組合わせパターンをつくってみて、新人デザイナーの意見も参考にしながら、この書体ならではの理想型を絞り込んでいく。きょうの作業でかなり違和感を低減できたように思う。

ツールに関する細かなやり取り。使い方だけでなく、ファイル名称も含め分かりやすさを徹底する。なにはさておき、簡単に使えるのは確かな長所といえるだろう。昼は粗食、夜は和食。

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