組版テストのデザイン確認と漢字熟語シートへの赤入れ。この段階としては悪くない。新入社員の試用期間が残り一ヶ月余りとなり、通常業務が落ち着いてきたタイミングで1時間半のレクチャーをおこなう。デザイン畑の出身なので話が早い。

百人一首の競技かるた名人を取材していた今週の『情熱大陸』を面白く観ていたら、いま教えているクラスにも競技かるたをやっている学生がいた。和装するのか尋ねたら、ジャージですと言っていた。

武蔵美の活版実習一週目。自分の手で組んだ金属活字が、自分の手で回した印刷機を通って紙に刷られて出てきた瞬間、自然に歓声と拍手が起きた。単純明快な機械の原理と金属活字の物質感、黒々としたインクによって写し取られた紙と文字の存在感はやはり格別ということか。

難渋していた本を週末に何冊か読み終えた。まずは硬めの本をたくさん読んで咀嚼力を上げる準備が必要。そのうえで著者の思考の流れや文章のリズムにうまく乗れれば速く読めるし理解も進む。思考力もある種の筋肉トレーニングやスラローム技術が有効と思われる。

ここまでの講義を振り返りながら、ヘレン・ケラーの映像を入れるなどして文字とは何かを問うた授業のレポートを採点する。授業の最中は反応が薄いように感じていたが、レポートの内容は過去5回のなかでいちばん充実していた。問うているこちらが問われているのだろう。

きのうの打ち合わせで提案された企画はとても興味深い内容だった。潮目が変わる兆しとも受け取れる。表層からは窺い知れぬ深層が静かに動いていることは確かなようだ。

書体説明のテキストを書き足す。思い入れたっぷりの書きかたより感情を抑えたほうが伝わることは誰もが知るところだが、気持ちをフラットにすると味気ない文章になってしまう。感情と記述の関係は本当に不思議。

半角仮名のデザイン確認とフィードバック。どちらかといえば平体に向いている書体だと思っていたが、意外に長体の表情が面白い。デザインチェックを単なる確認や赤入れと考えるのではなく、気づきや発見の機会と考えればその意味は大きい。いつしかこれらが組み合わさり、不意に焦点を結ぶことがある。新しい書体の輪郭が浮かび上がるのはそんなときだ。

制作中の書体についてコメントしているとき「この文字はいい、あの文字はどうと先生は言うが、いったいどういう基準で言っているのか」と真っ当な質問をしてきた学生がいた。決まった答えを持ち合わせているわけではないので、そのつど言葉を尽くす。うまくいくこともあればぜんぜん通じない場合もある。この日はたまたまうまくいった。

半角片仮名と片仮名合字のデザイン確認とフィードバック。自分の目できちんと整えられるようになってきたようで赤入れはすこしだけ。このところ中堅デザイナーが力をつけてきたことはまことに喜ばしい。全員中堅デザイナーなので底上げというより中核部の充実と言えるだろう。

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