開発中フォントの詰めデータを印字物で確認する。制約がデザインを磨くという言説をときどき見かけるが、こと日本語フォントに関して言えば、仕様に関する制約の多くは、書体デザインの可能性を狭めている。仕様だけの問題ではなく、アプリケーションやラスタライザが対応しなければ解決できないということは分かっているし、いたずらに手をこまねいているわけではないのだが、歯ぎしりし続けて二十年というのは、いかにも長すぎる。

メンチカツを食べながら読書遍歴について語り合う。ハードボイルドを経由して辿り着いた船戸与一は最高だった。私のなかで船戸冒険活劇と五味剣豪小説は、その乾き具合と疼き具合において通じるところがある。つまりは痺れる読み物であるということ。野郎は読むべし疼くべし。

息子が作ってくれた月見うどんを食べて仕事場へ。漢字制作の手を止めて、朝倉さやさんの歌声に聴き入る。民謡日本一の歌唱力は伊達じゃない。『楓』も『ルビーの指環』も『あなたに逢いたくて』もほんとにいい。

タイププロジェクトの展望と指針について明文化する。もうひと揉みしてから社内プレゼンにかけたい。会社の規定についても検討をおこなう。げに難しきはさじ加減。責任の重さが増すに従い、髪の生え際は確実に後退している。ひらめかなくなっているのに、きらめきはじめるとは何事か。

武蔵美今期の最終日は、自作書体を使ったテキスト表現の講評会。パワフルな作品はなかったが、全体に質が高く、素晴らしい出来映えの書体が複数あった。とらわれのない心で古典と向き合い、現代的な感覚で描かれた文字の瑞々しさ。日本語と日本の文字に流れているものが、筆と墨によって露わになるさまは、今と昔の脈絡がまだつながっていることを思わせる。デザインの命脈は文化にある。

 せせらぎは光り影には曼珠沙華     茶門

早朝自宅を出て三河に向かう。大雨の影響で新幹線が40分ほど停車したが、葬儀開始時間ちょうどに到着。ひさしぶりに会う従姉妹と言葉を交わす。亡くなった伯母さんは、私が知るなかでもっとも無私の人だった。働いては施しが人生のような伯母さんであった。

吹割の滝を間近で見、洞元湖をカヌーで渡る。伯母が亡くなったため、いちど東京に戻り、明日の朝三河高浜へ。

休暇をもらって群馬の水上温泉へ。台風接近中で明日のカヌーが危ぶまれる。書体および会社の展望を思い描く材料になるような本と資料を多めに準備しておく。

新人がつくった漢字のデザインチェックと修正作業を半日。午後から片仮名デザインの微調整にじっくり取り組む。懸念していた漢字の生成方式に関する問題は、エンジニアが難なくクリア。しかしまた解決困難な別の問題が別のところから浮上した。

去りゆく夏を惜しみつつひとり仕事場でそうめんを食べる。漢字のデザイン修正と新規制作。別書体の仮名の見直しとブラッシュアップ。

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