書体のアイデアについて可否の判断を下しにくいのは、試作した文字の品質がよほど高くないと筋の良し悪しが分からない場合が多いからである。アイデアは変わらないのに、文字を磨いていく過程でふいに目の前が開けるようなことがよくある。この経験は、幼いとき夢中になった泥だんごづくりに似ていなくもない。向かいの鋳物屋さんの土でつくった泥だんごはとくに美しく、親があきれるほど磨いて、半透明になった球体をためつすがめつ眺めたものだ。磨けば玉、磨かねば土塊(つちくれ)。