午前と午後に別件の来客あり。取材後の雑談で、ニューヨーク、スイス、西安、オランダなどさまざまな都市の話題が飛び交った。都市に固有の歴史と文化があるならば、それをデザインに活かさない手はない。夕食のあと自宅で寛いでいたら、数年ぶりに声を聞く知人から、携帯電話に都市フォントがらみの相談が入った。これぞシンクロにシティ。
いつもおいしい食事をつくってくれてありがとうと、息子と折半して買ったおつまみチーズセットを妻に贈る。中国書法関連の資料を眺め、明日の取材のネタ仕込み。ダイナゴンをほおばりつつ、同郷の友人から頂いたドリップ式のコメダ珈琲を飲む。
9時にレタースペース入り。縦組みのサンプルを出力して、新人デザイナーがつくった試作のデザインチェックを行なう。文字サイズを変えると、これまでの書体より印象が変わる度合いが激しいので、想定している用途の実寸に近い大きさで確認する。書体の目的と検討項目を明確にすると、新たな経験値を得られる可能性は高くなる。
「先生、うまく書けません」と嘆く生徒には「この課題は上手に字を書くのが目的ではないので心配ない」と言う。拙くとも筆と墨で書かれた文字は瑞々しい。 おずおずと発せられる肉声を表すなら、むしろたどたどしい文字のほうが似つかわしい。書き手の素に近い文字、真率な声が聞こえるような文字はたいてい好ましい。
ちょっと長めのプレゼンPDFづくり。まずは全体の構成を決めるところから。質疑応答の時間を充実させたい。ひさしぶりに小塚さんと長めの電話トーク。お元気そうで何よりという以上に、穏やかな口調に込められた檄に身が引き締まる。
日焼けして戻ってきた息子の話を聞きながら、おかひじきのお好み焼きを食べる。思いつきで友人と東京タワーまで自転車で行ってきたと言う。新宿を経由して、50キロ超の道のりを往復四時間。ふだん無口なだけに、面倒くさそうに語る内容がいちいち面白い。
ミスドでドーナツを買って仕事場で調べもの。オフィスの空気を入れ替え、鉢植えの植物に水をやる。書体の構想を練るのは楽しいけど、一定のテンポで作っていないと体が鈍って仕方がないので、腕立てふせで埋め合わせ。アイスコーヒーがうまい。
『戦闘妖精・雪風』シリーズ3作目を読み終えた。SFというジャンル関係なしに、この濃密な物語の面白さはまったく格別である。非言語コミュニケーションの葛藤をこれほど緻密に描写した小説をほかに知らない。
蜂も人もつつじのなかに遊びけり 茶門
自家製たこ焼きを食べてから清澄白河へ。目的はおしゃれスポットではなく、深川江戸資料館の『江戸文字展』を観るため。応用できる可能性は低いが、行き詰まっていた書体の問題を解決するヒントをひとつ見つけた。
蜜を吸う青スジ揚羽をぞんぶんに眺めたあとレタースペースに入る。きのうやり残した書類の整理。処分できたのは二割ていどだが、あらかた選別できたので気分はすっきり。今後の反省材料として用意してもらった、フィットフォントの記者発表とトークイベントの記録映像をひとりオフィスで視聴する。