池袋サンシャインで開かれているPAGE2018へ。今年はフォントワークスとモノタイプと方正が出店していなかった。来場者もやや少なかったような気がする。私はいくつかのブースで長めの立ち話。
世界で最も美しい本コンクールと使用フォント(オランダ/ドイツ編)
オランダ
◉『Siens hemel』
在庫切れだったので、私は別のエディションを注文しました。
■ Dolly Pro (Underware) オランダ、フィンランド(ヘルシンキ)
この本に使われているDollyの見本帳は、表紙がブルドック。書籍用のフォントとして品質が高いだけでなく、こういう洒落た感覚がとてもいい。犬の耳のようなセリフが可愛らしい。
■ Agipo (RP Digital Type Foundry)
■ Neuzeit Book (Linotype)
■ Plactice (Optimo Type Foundry)
■ Whitney (Hoefler & Co.)
■ Akzidenz Grotesk (Berthold)
■ Founders Grotesk (Klim Type Foundry)
■ New Fournier (b+p swiss typefaces)
■ Auto (Underware)
■ Neutral (Typotheque) オランダ
■ FF Balance (FontFont)
■ Merkury Mono (RP Digital Type Foundry, Radim Peško) ロンドン
■ ITC Mendoza (ITC)
■ Plantin (Monotype)
■ Gill Sans (Monotype)
■ Helvetica Neue (Linotype)
■ Univers (Linotype)
■ Adobe Garamond (Adobe)
ドイツ
■ Halis (Ahmet Altun) トルコ
■ Circular (Lineto Type Foundry) スイス
■ Bauer Neue (Lineto Type Foundry) スイス
■ Farnham Text
■ Theinhardt (Optimo Type Foundry)
■ Helvetica Neue LT 45 Light (Linotype)
■ Univers Bold (Linotype)
国別の紹介はこれでチェコ編を残すのみとなりました。あと番外編として、フォントのコンビネーションについて紹介する予定です。「世界のブックデザイン2016-2017」で展示されている本は、実際に手にとって見ることができますので、本好きフォント好きの方にはお勧めの展覧会です。点数が多いので2時間くらいはみておいたほうがいいと思います(3月4日まで)
世界で最も美しい本コンクールと使用フォント(スイス編)
スイス
スイスのジュネーヴにあるOptimoが強い。同じくスイスのファウンドリー、Linetoが意外に少ない。全体としてはやや太めのグロテスク系が目につく一方で、HelveticaとUniversは、ここ数年でかなり登場回数が減少した。
■ Stanley (Optimo Type Foundry) スイス
■ Plactice (Optimo Type Foundry)
■ Plain (Optimo Type Foundry)
■ Clarendon Graphic (Optimo Type Foundry)
■ Next Typewriter, Next Book, Next Poster (Optimo Type Foundry)
■ Theinhardt (Optimo Type Foundry)
■ Bau Medium (FontFont)
■ LL Unica77 (Lineto Type Foundry) スイス
■ Rauchwaren (Dinamo Standards) スイス
■ Knockout No. 54 Sumo Webfonts (Hoefler & Co.)
■ Mercator 「オランダのHelvetica」
■ Helvetica Neue 75 Bold
■ Sabon
OptimoのFrançois Rappoは、『30 Years of Swiss Typographic Discourse in the Typografische Monatsblaetter: TM RSI SGM 1960-90』の編集にも関わっている。
最近人に勧めているのが『The Visual History of Type』という本で、1450年から2015年までの主要な欧文活字書体を、当時の見本帳とツボを押さえた解説で一望できる。
世界で最も美しい本コンクールの入選図書に使われていたフォントのメモ。私が判別できる欧文フォントはごく限られているので、会場で鉛筆を借りてクレジットされているフォント名をメモしました。◉は書名、■ はフォント名です。今回はカナダ編。
カナダ
詩集の入選が多いせいかセリフ系フォントの使用率が高い。一時期多かった復刻的アプローチは減り、セリフなどのディテール処理を簡略化したローマン体フォントが作られる傾向が続いている (世界的に) 。
◉『Sea Change』
■ FF Scala (FontFont)
◉『When we were alone』
■ ITC Stone (Sumner Stone)
◉『On Not Losing My Father’s Ashes in the Flood』
■ FF Seria (FontFont)
■ Ideal Sans (Hoefler & Co.)
◉『araxi』
■ Linotype Didot (Linotype)
■ Avenir (Linotype)
■ Lyon Text (Commercial Type)
■ Akzidenz Grotesk (Berthold)
■ Huronia (Rosetta Type Foundry)
■ Ashbury (Hoftype) ドイツ(ミュンヘン)
■ Akkurat (Lineto Type Foundry) スイス
■ Mrs Eaves (Emigre)
■ Neuzeit Grotesk (URW)
■ FF Clifford (FontFont)
■ Plantin (Monotype)
■ Gotham (Hoefler & Co.)
■ ITC Franklin Gothic (ITC)
■ Adobe Caslon (Adobe)
■ Adobe Garamond (Adobe)
■ Adobe Jenson (Adobe)
■ Utopia (Adobe)
Cliffordと合わせて使われていたフォント名を書き間違えたようで、検索しても出てきませんでした (私のメモではOdeneになっています)。会場でご覧になった方、お知らせいただけるとうれしいです。
追記:後日TypecacheのAkira1975さんからOdenseという確認連絡をいただきました。
世界で最も美しい本コンクールと使用フォント(スイス編)
世界で最も美しい本コンクールと使用フォント(オランダ/ドイツ編)
世界で最も美しい本コンクールと使用フォント(チェコ編)
新しい書体をつくりはじめると、つくる過程のなかで新しい気づきを得ることが多い。今まで通りではない書体のむずかしさは、小さな発見の喜びによって報われる。その発見は、ときに書体設計の原理的な部分に触れることもあり、私が書体制作の現場から離れられない理由のひとつになっている。
サンデースポーツの特集で取り上げられていたスキージャンプの伊藤有希選手の言葉がとても良かった。「ゆっくり手に入れたものって、はなれていくのもゆっくりだと思う」
印刷博物館で「世界のブックデザイン2016-17」を観る。 今回の特別展示は、21世紀チェコのブックデザインでこちらも見ごたえあり。15時から二階の小石川テラスにて「高岡重藏先生の思い出の会」。3年ぶり5年ぶりの友人におおぜい会えたし、なんといっても発起人の方々のスピーチがよかった。
東京積雪。昼すぎまで降る。漢字制作を半日。仕事を早く上がって横浜へ。中華街で家族と食事をしたあと、みうらじゅん&いとうせいこうの「ザ・スライドショー14」を横浜体育館で観覧。
『TPスカイ開発ストーリー』の1回目をアップ。後日ブログから別のページに引越す可能性があるので、日記は日記として書いておくことにする。とくに書いておくこともないのだけど。
『TPスカイ開発ストーリー』第1回「フォントの開発背景と意図」
■まえがき
TPスカイをリリースしてまもなく1年になります。認知・普及はまだこれからですが、これを機にフォントの開発背景と意図、そして書体デザインについて少し踏み込んだ解説をおこなうことにしました。
日本語フォントは、標準的な文字セットでも約1万字が必要で、制作開始から完成までにおよそ3年ほどかかります。TPスカイは、書体ファミリーが大きい上に紆余曲折あり、最後に品質を磨く工程に時間をかけたため、完成までに12年を要しました。なぜ品質向上に力を注いだのかは、この連載で明らかにするつもりです(全6回)。
TPスカイの「すっきり感」がきわだつハイコントラストのEL
■次世代フォントを考える
TPスカイの原型にあたるフォントの開発概要を社内で発表したのは2006年のことです。ちょうどAXISコンデンスのデザインが終わったころでした。印刷用のフォントが充実する一方で、業界全体を見わたしても表示用フォントへの取り組みが手薄なままだったので、これはなんとかしなければと感じていました。
さいきん広告の見出しやサインシステムで使われる機会が増えてきたAXISコンデンスも、想定していた用途は、小さな画面にたくさんの文字を表示することでした。読みやすさを損ねないよう、漢字の字幅は仮名より広めに設定してあります。
TPスカイに話を戻します。タイププロジェクトの内部で発表したTPスカイの提案書の書き出しは次の通りです。
次世代フォントのあり方:背景
1. スクリーン上で見る・読む文字情報の増加
2. 多種多様なデバイス、ディスプレイの登場
3. 機能性と品質に対する高いレベルでの要求
オーソドックスな時代認識だと思いますが、この提案をおこなった10年後の今も、表示を前提としたフォントの開発が立ち遅れている状況は変わっていません。AXIS Fontは、もともと紙媒体がターゲットでしたので、画面表示用のフォントに正面から取り組まなければと考えて、意気込んでつくった提案書です。
上の資料は、2007年に制作したTPスカイのプロトタイプです。写真中央に見える「TSフォント」の文字は、TPスカイの開発名です。TSは「Tapered Sans serif」の略で、書体の様式を指す「先細のサンセリフ」をコードネームにしました。ストロークの抑揚は、TPスカイのアイデンティティでもあります。
AXIS FontとTPスカイは、日本語フォントのファミリー概念を拡張するとともに、日本語サンセリフ書体の可能性を示すという意思によって貫かれています。
■TPスカイとTP明朝
2014年にリリースしたTP明朝は、TPスカイと同じくスクリーン適性の向上を課題に、横組みに特化してデザインした明朝体です。TP明朝に着手した2010年あたりは、ちょうどスクリーンにおける日本語タイポグラフィのあり方を見直す機運が高まっていたころで、TP明朝のプロトタイプを発表したのも「オンスクリーン・タイポグラフィを考える」のセミナーでした。
そのときの発表で、TP明朝の「コントラスト」という概念に想像以上に大きな期待が集まり、開発を本格化することにしたのです。
TP明朝のデザイン方針を固めたあと、若手チームに漢字の制作を任せ、私はTPスカイの開発を続行することにしました。コントラストの軸は、オンスクリーンで横画がとびやすい明朝体の問題や、横画が太くて漢字がつぶれがちなゴシック体の欠点を補完する機能があります。
TP明朝とTPスカイは、画面表示用のフォントとして有意なコントラスト軸を、日本語フォントのファミリーに明確に位置づけることを意図しました。
画面表示に適したフォントに必要な条件を次のように設定しました。これは先に掲げた「次世代フォントのあり方」の1から3にそれぞれ対応しています。
1. 明瞭性(視認性の高い文字デザイン)
2. 柔軟性(多様な状況に適応できるファミリー)
3. 簡潔性(制御点の少なさ=フォントサイズの軽さ=表示の速さ)
いずれの項目も、文字情報を取得する際の「認知負荷の軽減」を目標にしています。スクリーン上の文字を読む時間が増加している現代社会において、文字情報の認知負荷を減らすことは喫緊の課題です。
TPスカイは、画線の太さと文字の内部空間とのバランスを追求することで明瞭性を確保し、アンカーポイントとハンドルの数を最小限に抑えることで表示速度の最大化を目ざしました。
簡素で滑らかなストローク表現を持ち味とするベジェ曲線の長所を活かし、スクリーンに適した文字を提供する。これらの方針は、タイププロジェクトのフォントに共通する基本スタンスです。
TPスカイのミドルコントラスト L。書体ファミリーのコンセプトは「澄みわたる空」
『TPスカイ開発ストーリー』の1回目は、フォントの開発背景と意図について概説しました。次回は、フォント開発のきっかけとモチベーションについて書く予定です。
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