文字界隈が活況を呈している。振り返ってみると、2010年に出版された『文字をつくる 9人の書体デザイナー』は、刊行当初こそ大きな話題にならなかったが、じわじわと評判が広がり、仙台や深圳など、思わぬところで若いデザイナーから声をかけられる場面が増えるようになったのはこの本によるところが大きい。著者の雪朱里さんは現在も、『デザインのひきだし』で連載している「もじ部」を通じて、書体デザイナーの現場の声を伝え続けている。真摯な取材姿勢と丁寧な筆致にはファンが多い。

雪さんの活動に先だって、フォントディレクターの紺野慎一さんとエディター宮後優子さんの旺盛な行動力と幅広い影響力も見過ごせない。タイプフェイスに注目する層の裾野を広げ、新たなネットワークの構築を推進してきたキーパーソンである。紺野さんは『ファウスト』を契機にして星海社の設立に尽力し、宮後さんは満を持して『Typography』誌を立ち上げ、バラエティに富んだフォント周りの話題を多くの読者に届けている。『アイデア』誌編集長の室賀さんについては簡単にまとめられそうにないので今はおく。

『+DESIGNING』が季刊雑誌としては休刊となり、次号から年2回のムックで発行されることになった。創刊号が丸ごと一冊「文字」特集のムックだったことを思えば、原点に戻る良い機会とも考えうる。あらためて創刊号を見てみると、書・レタリング・ロゴタイプ・フォントという、文字の表現形態を広く渉猟した上で、各テーマを掘り下げるという書籍なみの充実ぶりにおどろかされる。「この本がきっかけで書体に興味を持つようになった」とうちの若いスタッフから聞いて即座に納得した。『+DESIGNING』の創刊は2006年。文字ブームの先駆けをなす重要な出版物のひとつと言える。小さな記事だが、古賀弘幸さんがエクスクルーシブフォントの話題でAXIS Fontに触れてくれたことを思い出す。最新号に「文字と私」というテーマで小文を書かせて頂いたが、特集が「文字と組版」であることに、小林功二編集長 (創刊当時副編集長)の気概を感じたのは私だけではないだろう。

文字界隈がにぎわっているいあいだに、国内外でフォントベンダーの統廃合が一気に進んだ。今は一段落しているように見えるが、フリーフォントの需要拡大、簡易フォント制作ツールのリリース、定額サービスの需要限界、オープンソースフォントの台頭など、フォントメーカーを取り巻く状況は予断を許さない。文字界隈の盛況ぶりとフォントメーカーの苦況ぶり。このちぐはぐな状況について考え続けているが、たしかな答えが見いだせないでいる。ひとつ言えるのは、フォントメーカーの正念場はこれからだろうということである。