杉浦康平さんの記念講演を聴くため東京工芸大学へ。「対をなすカタチ」を主題に、日本とアジアを結ぶかたちの数々を巡る一時間あまりの講演会は、中国語と韓国語の同時通訳つきで行なわれた。アジアの図像を読み解いたその先に、杉浦さんが目指すところ、これからのデザインに期待することは何かというお話を伺ってみたかったが、質疑応答の時間はなかった。
この四半世紀の杉浦さんの活動を鑑みれば、デザインの範疇を超えた地平で、アジアの図像に文化人類学的なつながりを見いだすことを使命と考えておられるのだと勝手に想像している。記念講演の元になっている展覧会のタイトルは「ANDB 2014 東京展」。ANDBは「アジア・ネットワーク・ビヨンド・デザイン」の略である。事実、杉浦さんが長い時間をかけて、アジア各地のデザイナーと親交を深めてきたことは『アジアの本・文字・デザイン』を一読すれば了解できる。
そういえば、今回のレクチャーでもっとも時間をかけて解説されたのが、東西横綱の土俵入り動画だった。雲竜型に朝青龍、不知火型に白鳳。日本の国技にモンゴル人の両横綱という構図は、おそらく杉浦さん好みでもあるだろう。雲竜の結び輪は亀をかたどり、不知火の結び輪は鶴をかたどっているという杉浦さんの仮説は、日本相撲協会にまだ認められていないそうだ。
実を言えば私は、杉浦さんが図像の読み解きで得た成果をどのように本と講演以外のかたちで見せてくれるのか待ちわびてきた者である。しかし、日本の風土で培われた多様な文化資源を、これからのデザインにどう活かしていくのか、世界にどう提示していくのか問われているのは、むしろ我々のほうなのかもしれない。