タイププロジェクトのデザイナーやエンジニアが、書体関連のあれこれを投稿していくブログです。書体デザイン・組版の豆知識や開発の裏話、スタッフおすすめの書籍紹介など幅広い内容でお届けします。

月末にひと月の更新内容を振り返るメールマガジンの配信も行いますので、ぜひご登録ください。

漢字制作と部首01「多い部首」

漢字は部首で分類できることを以前このブログで紹介しました。部首の分類は辞書によって異なったりもするので数字にはブレがありますが、それでも群を抜いて頻出度の高い部首がいくらかあります。制作中特に多いと感じるのは草冠・木偏・さんずい、そして人偏や手偏なども目立ちます。実際にスタンダード版(StdN)の場合、ワ冠の漢字は10字ちょっとであるのに対し草冠は300字以上と文字数がはっきり…

フォントの組版機能11「JIS78字形(jp78)」

「強靱」「靱帯」などの語で使われる「靱」にはバリエーションが多く、字体おたく的には話が長くなりがちな例なのですが、ばっさり削って図には2つだけ並べました。 皆さん、なじみがあるのはおそらく左のほうではないでしょうか。右のほうは、一時期写植機の文字盤で使われていた形で、写植の時代には書籍でよく見かけました。この字体が、写植経由でJISの文字コード規格の1978年版に使用され、それ…

コピペできない“木”04「太さ」

文字の一体感を出すのに太さの調整は欠かせません。中心に来る「木」は横画の調整が多めで、一文字全体の横画の本数や強く見せるべき筆画を意識しながら太さを合わせていきます。逆に、木偏など縦長の「木」で様々な幅に対応するため調整するのは主に縦画の太さです。ハライについては、横に長いハライなら横画を目安に、縦に長いハライなら縦画を目安にしていますが、画数の多い漢字ではあえて細めにして混雑…

Webフォントの最適化02「font-display」

本記事では、前回の記事の知識を前提としています。以下からお読みいただけます。 前回の記事:Webフォントの最適化01「FOIT・FOUT」 CSS の @font-face ルールの中に、font-display という記述子があります。このプロパティではフォントデータの読み込みが完了するまでの間、どのようにテキストを表示するかを定義できます。 font-display には、…

今月の一冊(2023年9月)『味岡伸太郎 書体講座』

今回は、味岡伸太郎著の『味岡伸太郎 書体講座』を紹介します。 本書はグラフィックデザイナーでもあり明朝体フォント「味明」シリーズを手がけた味岡伸太郎氏による書体、タイポグラフィに関する文章が収録されています。書体を作るに至った経緯、字体や書体、著作権等について論じられています。本全体が著者の手掛けた書体で組まれていて、書体の見本帳にもなっています。 「縦組横組考」の章では縦組が…

書体制作の舞台裏「TPの書庫、蔵書について」

スタッフブログ「TPの書庫から」ではおすすめの一冊を紹介していますが、タイププロジェクトの書庫にはたくさん蔵書があります。絶版で手に取りづらい本や、文字にまつわる本の多さに入社した当初驚きました。書体、書の本はもちろん、日本語、そのほか言語にまつわるもの、和歌など広く日本文化にまつわるもの、等々種類は多岐にわたります。 それらのほとんどは弊社の鈴木が集めた本で、読んだものは付箋…

フォントの組版機能10「分数の仲間(afrc/frac)」

OpenTypeフォントの分数には、2種類のスタイルが用意されています。ひとつは横線を使った「分数(afrc)」もうひとつが「スラッシュを用いた分数(frac)」です。 ProN版のAXIS Fontには、分母が2から12までの約分できない真分数と「0/3」と「1/100」が入っています。分子が0の「0/3」が入っている理由は、野球のピッチャーの投球回を表現するため。アウトを1…

Webフォントの最適化01「FOIT・FOUT」

Webフォントの概要03「Webフォントの課題」にて、日本語フォントはフォントデータの容量が大きく、ページの表示に時間がかかるなどの課題があることを説明しました。本シリーズでは、この詳細と最適化手法を紹介します。 まずは、FOIT・FOUTについてです。 Web フォントを使用すると、フォントデータの読み込みに時間がかかります。その間のテキストの扱いは、大まかに以下の2つの選択…

書体制作の舞台裏「TP書体をみかけるとき」

電車の車内広告、本の表紙、商品のパッケージ、美術館のサイン、などなど挙げたらきりがないですがタイププロジェクトのフォントは至る所で見かけます。スタッフブログでも使用事例紹介の記事がありますが、見かけたときに社内で報告しあっています。 入社して間もない頃は、通勤中や出かけたとき目に入ってくる文字を見つつタイププロジェクトのフォントを意識的に探すようにしていました。最初は見分けるの…

TPフォント使用事例紹介 「webサイト その2」

パッケージや書籍、Webサイト、広告など各媒体でのタイププロジェクトのフォントの使われ方を事例を元にご紹介していきます。今回は、Webサイトをまとめてご紹介します。*2023年5月での情報です。 ソニーブランドサイト URL:https://www.sony.com/ja/brand/motionlogo/ 【使用されているタイププロジェクトのフォント】 SST JP ソニーの…

コピペできない“木”03「テンの4画目」

4画目をテンにする「木」があるとシリーズ初回記事で紹介しましたが、このテンは文字に応じて時には他の筆画より大胆と思える程の調整が入ります。木偏などでは右側にくる要素とぶつかりやすいので、小さくしたり起筆の位置を下げたりしてこれを回避しています。どの文字でも小さく統一すれば良いということはなく、空間に余裕があるときは理想的な大きさと位置に整えます。文字全体から見ると小さなテンかも…

フォントの組版機能09「JIS90字形(jp90)」

図には2種類の「ちまた」という字を並べてみました。皆さん、なじみのある字はどちらでしょうか? 辞書に載っているのは、左のほうです。右は、一時期コンピュータでよく見られた形で、そのころは一部の雑誌や書籍でもこちらの形が使われていましたが、今ではもう、あまり見かけることはなくなりました。 現在タイププロジェクトが提供している日本語フォントは「AXIS Font ProN」「TP明朝…

今月の一冊(2023年7月)『活字に憑かれた男たち』

今回は、片塩二朗著の『活字に憑かれた男たち』を紹介します。 昭和初期の日本を中心に、年号や国を跨ぎながら11人の活字版印刷に深く関わる人物を取り上げています。日本の活字文化の歴史を知るのにおすすめの一冊です。歴史の中で様々な活字が開発され、しかしせっかく揃えられた活字も、多くが戦禍を被り溶かされました。淡々とした歴史書ではなく、それぞれの人物にまつわるエピソードや当時の世情とと…

コピペできない“木”02「幅と高さ」

「村榑樹」など木偏では「木」が縦長になりますが、右側に来る要素に合わせて「木」の幅を細かく変えています。逆に、高さの調整が必要な「宋栄榮」などの漢字もありますし、「棊」のように被さる要素と合わせるときは幅と高さ両方の調整をします。さらに「保新欝」などであれば小さな「木」が必要です。 一緒になる要素とぶつかってしまうなら、一部の筆画を切るようにして混雑を回避することもあります。こ…

TPフォント使用事例紹介 「webサイト その1」

パッケージや書籍、Webサイト、広告など各媒体でのタイププロジェクトのフォントの使われ方を事例を元にご紹介していきます。今回は、Webサイトをまとめてご紹介します。*2023年5月での情報です。 日本ヒューレット・パッカード合同会社 URL:https://www.hpe.com/jp/ja/home.html 【使用されているタイププロジェクトのフォント】 AXIS Font…

TPの書庫から『時代をひらく書体をつくる。』

今回は、雪朱里著の『時代をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』を紹介します。 本書は、活字・写植・デジタルフォントの三世代に渡って書体を制作、監修し、重要な部分を築いてきた橋本和夫さんのインタビューを通して日本語書体の流れについて触れられる内容になっています。 橋本さんが携わり、各時代を取り巻く環境のもとで作られ使われ…

Webフォントのデザインテクニック05「混植してみよう」

セルフホスティングの場合、フォントの読み込みには @font-face を使います。そのプロパティである unicode-range を使うことで、フォントの使用する文字範囲を指定できるため、複数書体の混植ができます。 ただし、 unicode-range には、フォントデータをサブセットする機能はなく、表示している文字以外のフォントデータも全てダウンロードされることに注意して…

Webフォントのデザインテクニック04「字形を変更しよう」

Webフォントの中には、OpenType機能を使って字形を変更できるものがあります。 たとえば、濱明朝イタリックにはリガチャ liga と任意の合字 dlig が含まれています。これらは CSS で font-feature-settings を指定することで、利用を制御できます。 以下は liga と dlig をそれぞれ有効/無効にしたものを並べたものです。 通常、ブラウザ…

コピペできない“木”01「ハライとテン」

今回からは「木」だけに注目して、漢字制作でどのような調整をしているかの紹介です。「札杉村極機樹呆栄柴新欝…」など「木」が入っている漢字は非常に多く、しかし全ての「木」をコピー&ペーストして使いまわしでは文字として不自然なアウトラインになってしまうので、様々な調整をして一文字一文字に合わせていきます。 まず大きな変更点として、4画目をハライにするかテンにするかの2パターンがありま…

TPの書庫から『江戸の瓦版-庶民を熱狂させたメディアの正体-』

今回は、森田健司著の『江戸の瓦版-庶民を熱狂させたメディアの正体-』を紹介します。 売り子は顔を隠し、作り手の名前もわからない。「瓦版」はそんな怪しげな非合法の印刷物でしたが、江戸から明治にかけて庶民を夢中にさせました。本書ではその瓦版の出版事情や実際に注目された記事が紹介されています。 瓦版はただ無機質に事実を報道するのではなく、分かりやすく面白くニュースを編集して伝えること…