タイププロジェクトのデザイナーやエンジニアが、書体関連のあれこれを投稿していくブログです。書体デザイン・組版の豆知識や開発の裏話、スタッフおすすめの書籍紹介など幅広い内容でお届けします。

月末にひと月の更新内容を振り返るメールマガジンの配信も行いますので、ぜひご登録ください。

今月の一冊(2022年6月)『「書体」が生まれる』

今回は、雪朱里 著の「『書体』が生まれる」を紹介します。 刊行記念のオンライントークイベントでは、著者の対談相手をタイププロジェクト代表・タイプディレクターの鈴木功が務めました。 本書では、金属活字における書体デザインを大きく変えた「ベントン彫刻機」と、日本における導入のきっかけとなった「三省堂」について、その歴史が描かれています。 かつて、金属活字は種字彫刻師によって彫られて…

書体づくりの舞台裏「豆腐」

表示できないテキストがあるとき代わりに表示される白い四角、これを無くすための戦いは古くから続けられていますが、それでもご覧になったことのある方は多いかと思います。この白い四角は見かけが似ているため「豆腐」と呼ばれることがあります。フォントによって違うデザインを設定できるので白い四角ではないこともあります。 AXIS Fontの場合「豆腐」は白抜きの四角にバツ印のデザインですが、…

Webフォントの概要05「Webフォントの配信形式:セルフホスティング」

Web フォントには、主に「フォント配信サービスの利用」と「セルフホスティング」の2つの配信形式があります。 ここでは「セルフホスティング」について説明します。 セルフホスティングとは、Web サイト制作者がサーバー上にフォントファイルを置き、サイト内で利用する方法です。 閲覧数や設定をあまり気にせず自由に利用できる反面、単にサーバーに置くだけでは、閲覧者に知識がある場合にフォ…

フィットフォントサービスの紹介01「フィットフォントとは」

タイププロジェクトが提供しているフィットフォントは、ウエイトやコントラスト、字幅などのパラメータを自由に調節できるデザインソリューションです。複数の軸のパラメータをシームレスに調整できるという特徴からバリアブルフォントを思い浮かべる方も多いかと思いますが、フィットフォントはバリアブルフォントとは異なる特徴を持っています。 バリアブルフォントがアプリケーション上のスライダーなどで…

TPの書庫から『日本レタリング史』

今回は谷峯藏 著の『日本レタリング史』を紹介します。 寺社扁額の構成書体(タイポグラフィ)さまざま、和様書流の系譜、江戸期各職域のタイポグラフィ、の三章立てで日本のレタリング史について書かれた本です。 巻頭にたっぷりと掲載されている扁額の書跡が、この本を読もうと思ったきっかけでした。個人的に意外で新鮮に感じたのは、楷書や行書の代表作で知られる平安時代の能筆家が、扁額で…

書体づくりの舞台裏「Slackのカスタム絵文字作ってみた」

ビジネスチャットツール「Slack」では絵文字でのリアクション機能などがあり、デフォルトの絵文字に加えてカスタム絵文字を登録することができます。 「お願いします」「ありがとうございます」などのカスタム絵文字はちょっとした受け答えにも使えて便利です。しかし、小さな正方形にテキストを収めるため過度な長体変形がされているケースを目にします。そこで今回は、字幅のバリエーションが用意され…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 02「骨格・太さ」

TPスカイ モダン Blkの制作は、TPスカイ ローコントラスト Bから骨格を広げて筆画を太くする作業でした。画数の少ない漢字は骨格を広げるゆとりがあるのですが、画数の多い漢字は太い線が混み合うので筆画を動かす余地が限られています。両者が一つの組版の中に混在しても揃って見えるように試作を重ねながら骨格の広げ具合を調整しました。 スタンダードな和文書体の中では特に太いウエイトを目…

TPの書庫から『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』

今回は、ジャスティン・ハウズ著、後藤吉郎 翻訳の『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』を紹介します。 1916年にロンドン交通局のために制作された地下鉄書体のジョンストン・サンズ。本書は書体を制作したエドワード・ジョンストンの功績や書体の制作過程、ブルズアイのロゴやリデザインされたニュー・ジョンストンについてなど豊富な資料とともに紹介、解説されています。 試行錯誤していくつも書か…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン06「ツメ情報」

和文はどの文字も同じ大きさの仮想ボディにデザインするのが基本です。しかし文字の形は一字一字異なっているので組んだ際に文字間のアキがバラついてしまうことがあります。そのバラつき抑えるためにそれぞれの文字や文字同士の組み合わせに対して入れるのがツメ情報です。特に仮名は使用頻度が高く個々の形状にも差が出やすいので満遍なくツメ情報を入れます。対して漢字は文字数が膨大で使用頻度もまちまち…

TPスカイ クラシック欧文開発ストーリー03「制作時にこだわった点」

TPスカイ クラシック欧文としてこだわった点は和文との見え方の調和です。今回はウエイトごとに和文とのなじみを調整し、x-heightを決めています。これはフトコロを引き締め、少し小さく見える和文に対して、欧文がバラバラに見えないようにするためです。様々な比率で検証し、より良い見え方を探り、製品版に至っています。古典的な骨格を持ちながら、落ち着つき、親しみやすい雰囲気をもつクラシ…

Webフォントの概要04「Webフォントの配信形式:フォント配信サービス」

Web フォントには、主に「フォント配信サービスの利用」と「セルフホスティング」の2つの配信形式があります。 ここでは「フォント配信サービスの利用」について説明します。 フォント配信サービスとは、Web フォントを配信するサービスを利用する方法です。フォントデータを自前で持つ必要がありません。 タイププロジェクトのフォントも配信しているREALTYPEや、Adobe CC製品に…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 01「モダン?」

私がTPスカイ モダン Blkに参加したばかりの頃によく考えていたのは「“モダン”ってなんだろう?」ということです。ひらがなや欧文の試作は既に出来ていて目指すところは示されていたのですが、それでも担当することになった漢字やカタカナをカタチにしていく上で“モダンな和文書体”のイメージが自分には足りないと感じていました。 というのは、デザイン・文字業界にモダンスタイルとカテゴライズ…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン05「整合性」

1つの文字でも「筆画を繋げる・離す」といったいくつかのパターンが許容されていることがあります。広い目で見たときには優劣のない違いでも、フォント開発ではコンセプトに合った最適解を検討し、その上で近い要素の整合性をとっていく必要があります。 濱明朝と金シャチフォント 姫の仮名を図に用意しました。どちらも筆で書いたようなデザインですが、筆脈の表現に違いがあり、またフォント内では近い要…

TPスカイ クラシック欧文開発ストーリー02「TPスカイ ベーシックとの比較」

TPスカイの欧文は比較的均一な字幅を持っています。一方でTPスカイ クラシックは古典的な骨格をベースとして持っているため、字幅の差があります。Bなどは引き締まり、Cなどは空間を大きくもったデザインになっています。また、小文字のx-heightを低くすることで和文のフトコロを引き締めるのと同様の効果でクラシックな雰囲気を出しています。単語で見ても変化はありますが、文章を組んだ時も…

TPの書庫から『文字の美・文字の力』

今回は、杉浦康平編の「文字の美・文字の力」を紹介します。 この本にはアジア圏の様々な文字意匠がまとめられています。韓国の文字絵、京都の「大」文字焼きや、「壽」を印した中国の隈取り、クメールの男性の肌に広がる文字護符の文身など。筆者のアジア文字研究の資料の中から選ばれて掲載された文字意匠は、80点に及びます。 本書は、それらの文字意匠を特徴ごとに分けた5つの章で構成されています。…

欧文イタリック07「傾ける文字・傾けない文字」

本シリーズの前回記事「イタリックの傾斜」では傾き具合がもたらす印象の差について書きましたが、今回はひとつのフォントの文字セットの中でどのグリフを傾けるのかについてお話ししたいと思います。 イタリックは横に傾いているデザインが一般的ですが、フォント内の全ての文字が傾いているというわけではありません。フォントに含まれているグリフをひとつひとつ見ていくと正体のままのデザインを保ってい…

Webフォントの概要03「Webフォントの課題」

前回は Web フォントの魅力や利点について書きましたが、Web フォントにはいくつか課題もあります。 一つは料金の問題で、フォント配信サービス・セルフホスティングライセンスは、ほとんどが有料で、これが一つのハードルとなっているようです。また、長い期間残す必要があるサイトの場合は、現在のフォント配信サービスの料金体系と相性が悪い場合があります。 「デザイナーとしては Web フ…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン04「肉付け」

明朝体は書籍の本文などでもよく使用される日本語組版でのスタンダートな書体です。その明朝体の漢字と仮名を見比べると、肉付けがずいぶん異なっています。もともと中国に起源がある明朝体は漢字だけの書体で、筆で書いた文字が木版印刷で効率的に彫刻できるよう整理されていったものが原形です。日本に輸入された後に別途用意された仮名は、筆で書いた楷書をベースに活字向けの調整をしたものでした。さらに…

TPの書庫から『されど鉄道文字』

今回は、中西あきこ著の『されど鉄道文字 駅名標から広がる世界』をご紹介します。 日ごろ電車を利用する中で欠かせない案内や駅名の表示に使用されている書体が、どのようにして選ばれたのか気になりました。タイププロジェクトのAXIS Fontも西武鉄道のサインシステムに使用されており、本書で言及されている鉄道で使われてきた旧い文字から現在までのつながりに興味を持ち選書しました。 職人に…

TPスカイ クラシック欧文開発ストーリー01「TPスカイ クラシックの特徴」

TPスカイ クラシックはサンセリフ体の簡潔明快さと、古典的な楷書の端正さを合わせ持つ書体です。和文の中に含まれる欧文として、開発当初は文字の形の相性が良いものを制作することだけ意識していました。しかし、制作と検証を重ね、形としての相性だけではなく、欧文においても古典的な骨格、トラヤヌス帝の碑文等に見られる大文字、オールドローマン系のスタイルをクラシックの典拠として位置付けていま…