タイププロジェクトのデザイナーやエンジニアが、書体関連のあれこれを投稿していくブログです。書体デザイン・組版の豆知識や開発の裏話、スタッフおすすめの書籍紹介など幅広い内容でお届けします。

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書体づくりの舞台裏「目玉」

弊社の以前の作業環境では、元データにエラーのあるグリフを「目玉」と呼ばれるアイコンへ置き換えてフォントを出力する設定がありました。一つ目の黒い球体に無数の枝か触手のようなものが生えたなんとも禍々しい姿をしています。視線を落としているのかこちらを見下ろしているのかわかりませんが、私にはこれが物言いた気な表情に見えなくもないのです。このデザインは、私たちを激励するための開発エンジニ…

TPの書庫から『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』

今回は、雪朱里著の『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』を紹介します。 以前紹介した『書体が生まれる』の中にも出てきた人物が取り上げられていることや、本書で紹介されている職人や技術者が辿ってきた時代や仕事と、自分の携わっている書体デザインに引き寄せてものづくりや仕事について考えてみたいと思い選書しました。 本書は活字、印刷加工や紙づくりを支えてきた職人や技術者へのイン…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 03「実験!」

このシリーズの前回の記事で「漢字の試作で骨格や太さの調整をした」という話を紹介しましたが、試作段階では他にもさまざまな調整や実験がありました。例えば、字面率を数パーセント毎に刻んだサンプルです。最終的にはギリギリまで大きめの字面率を採用したので、モダンBlkをベタ組にすると文字と文字の間が狭くみっちり並びます。 他にも太さを意識した実験として、平体をかけたサンプルを作ってみたり…

漢字と仮名の組み替え01「既存の組み替え」

和文組版では漢字と仮名を違う書体に組み替える手法がしばしば活用されています。 以前このブログで、明朝体は成り立ちの違う漢字と仮名が組み合わせられていると紹介しました。他に慣習となっている例としては漫画の組版があります。日本では漫画の台詞を組むのに、漢字はゴシック体、仮名は明朝体仮名に近い毛筆の印象がある書体を組み合わせて使うのが一般的です。また和文フォントの中には、漢字と仮名を…

今月の一冊(2022年6月)『「書体」が生まれる』

今回は、雪朱里 著の「『書体』が生まれる」を紹介します。 刊行記念のオンライントークイベントでは、著者の対談相手をタイププロジェクト代表・タイプディレクターの鈴木功が務めました。 本書では、金属活字における書体デザインを大きく変えた「ベントン彫刻機」と、日本における導入のきっかけとなった「三省堂」について、その歴史が描かれています。 かつて、金属活字は種字彫刻師によって彫られて…

書体づくりの舞台裏「豆腐」

表示できないテキストがあるとき代わりに表示される白い四角、これを無くすための戦いは古くから続けられていますが、それでもご覧になったことのある方は多いかと思います。この白い四角は見かけが似ているため「豆腐」と呼ばれることがあります。フォントによって違うデザインを設定できるので白い四角ではないこともあります。 AXIS Fontの場合「豆腐」は白抜きの四角にバツ印のデザインですが、…

Webフォントの概要05「Webフォントの配信形式:セルフホスティング」

Web フォントには、主に「フォント配信サービスの利用」と「セルフホスティング」の2つの配信形式があります。 ここでは「セルフホスティング」について説明します。 セルフホスティングとは、Web サイト制作者がサーバー上にフォントファイルを置き、サイト内で利用する方法です。 閲覧数や設定をあまり気にせず自由に利用できる反面、単にサーバーに置くだけでは、閲覧者に知識がある場合にフォ…

フィットフォントサービスの紹介01「フィットフォントとは」

タイププロジェクトが提供しているフィットフォントは、ウエイトやコントラスト、字幅などのパラメータを自由に調節できるデザインソリューションです。複数の軸のパラメータをシームレスに調整できるという特徴からバリアブルフォントを思い浮かべる方も多いかと思いますが、フィットフォントはバリアブルフォントとは異なる特徴を持っています。 バリアブルフォントがアプリケーション上のスライダーなどで…

TPの書庫から『日本レタリング史』

今回は谷峯藏 著の『日本レタリング史』を紹介します。 寺社扁額の構成書体(タイポグラフィ)さまざま、和様書流の系譜、江戸期各職域のタイポグラフィ、の三章立てで日本のレタリング史について書かれた本です。 巻頭にたっぷりと掲載されている扁額の書跡が、この本を読もうと思ったきっかけでした。個人的に意外で新鮮に感じたのは、楷書や行書の代表作で知られる平安時代の能筆家が、扁額で…

書体づくりの舞台裏「Slackのカスタム絵文字作ってみた」

ビジネスチャットツール「Slack」では絵文字でのリアクション機能などがあり、デフォルトの絵文字に加えてカスタム絵文字を登録することができます。 「お願いします」「ありがとうございます」などのカスタム絵文字はちょっとした受け答えにも使えて便利です。しかし、小さな正方形にテキストを収めるため過度な長体変形がされているケースを目にします。そこで今回は、字幅のバリエーションが用意され…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 02「骨格・太さ」

TPスカイ モダン Blkの制作は、TPスカイ ローコントラスト Bから骨格を広げて筆画を太くする作業でした。画数の少ない漢字は骨格を広げるゆとりがあるのですが、画数の多い漢字は太い線が混み合うので筆画を動かす余地が限られています。両者が一つの組版の中に混在しても揃って見えるように試作を重ねながら骨格の広げ具合を調整しました。 スタンダードな和文書体の中では特に太いウエイトを目…

TPの書庫から『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』

今回は、ジャスティン・ハウズ著、後藤吉郎 翻訳の『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』を紹介します。 1916年にロンドン交通局のために制作された地下鉄書体のジョンストン・サンズ。本書は書体を制作したエドワード・ジョンストンの功績や書体の制作過程、ブルズアイのロゴやリデザインされたニュー・ジョンストンについてなど豊富な資料とともに紹介、解説されています。 試行錯誤していくつも書か…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン06「ツメ情報」

和文はどの文字も同じ大きさの仮想ボディにデザインするのが基本です。しかし文字の形は一字一字異なっているので組んだ際に文字間のアキがバラついてしまうことがあります。そのバラつき抑えるためにそれぞれの文字や文字同士の組み合わせに対して入れるのがツメ情報です。特に仮名は使用頻度が高く個々の形状にも差が出やすいので満遍なくツメ情報を入れます。対して漢字は文字数が膨大で使用頻度もまちまち…

TPスカイ クラシック欧文開発ストーリー03「制作時にこだわった点」

TPスカイ クラシック欧文としてこだわった点は和文との見え方の調和です。今回はウエイトごとに和文とのなじみを調整し、x-heightを決めています。これはフトコロを引き締め、少し小さく見える和文に対して、欧文がバラバラに見えないようにするためです。様々な比率で検証し、より良い見え方を探り、製品版に至っています。古典的な骨格を持ちながら、落ち着つき、親しみやすい雰囲気をもつクラシ…

Webフォントの概要04「Webフォントの配信形式:フォント配信サービス」

Web フォントには、主に「フォント配信サービスの利用」と「セルフホスティング」の2つの配信形式があります。 ここでは「フォント配信サービスの利用」について説明します。 フォント配信サービスとは、Web フォントを配信するサービスを利用する方法です。フォントデータを自前で持つ必要がありません。 タイププロジェクトのフォントも配信しているREALTYPEや、Adobe CC製品に…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 01「モダン?」

私がTPスカイ モダン Blkに参加したばかりの頃によく考えていたのは「“モダン”ってなんだろう?」ということです。ひらがなや欧文の試作は既に出来ていて目指すところは示されていたのですが、それでも担当することになった漢字やカタカナをカタチにしていく上で“モダンな和文書体”のイメージが自分には足りないと感じていました。 というのは、デザイン・文字業界にモダンスタイルとカテゴライズ…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン05「整合性」

1つの文字でも「筆画を繋げる・離す」といったいくつかのパターンが許容されていることがあります。広い目で見たときには優劣のない違いでも、フォント開発ではコンセプトに合った最適解を検討し、その上で近い要素の整合性をとっていく必要があります。 濱明朝と金シャチフォント 姫の仮名を図に用意しました。どちらも筆で書いたようなデザインですが、筆脈の表現に違いがあり、またフォント内では近い要…

TPスカイ クラシック欧文開発ストーリー02「TPスカイ ベーシックとの比較」

TPスカイの欧文は比較的均一な字幅を持っています。一方でTPスカイ クラシックは古典的な骨格をベースとして持っているため、字幅の差があります。Bなどは引き締まり、Cなどは空間を大きくもったデザインになっています。また、小文字のx-heightを低くすることで和文のフトコロを引き締めるのと同様の効果でクラシックな雰囲気を出しています。単語で見ても変化はありますが、文章を組んだ時も…

TPの書庫から『文字の美・文字の力』

今回は、杉浦康平編の「文字の美・文字の力」を紹介します。 この本にはアジア圏の様々な文字意匠がまとめられています。韓国の文字絵、京都の「大」文字焼きや、「壽」を印した中国の隈取り、クメールの男性の肌に広がる文字護符の文身など。筆者のアジア文字研究の資料の中から選ばれて掲載された文字意匠は、80点に及びます。 本書は、それらの文字意匠を特徴ごとに分けた5つの章で構成されています。…

欧文イタリック07「傾ける文字・傾けない文字」

本シリーズの前回記事「イタリックの傾斜」では傾き具合がもたらす印象の差について書きましたが、今回はひとつのフォントの文字セットの中でどのグリフを傾けるのかについてお話ししたいと思います。 イタリックは横に傾いているデザインが一般的ですが、フォント内の全ての文字が傾いているというわけではありません。フォントに含まれているグリフをひとつひとつ見ていくと正体のままのデザインを保ってい…