書体づくりの舞台裏:フォントの赤入れ03「<、><」

今回紹介するのはV字の赤入れです。V字は書き込む位置や向きで様々な指示ができます。 要素同士のあいだに書き込まれる1つのV字は「あいだが狭くなっているから、空ける」という指示です。横向きでも縦向きでも使えて、縦向きは上図の「組」のように偏と旁の間に書かれたりします。「穐」は横画を細くしてあいだを空けるといいよ、と先輩からアドバイスをもらったのでメモがしてあります。 向かい合った…

フォントを作る人に聞いてみた その2:好きな漢字グリフ3

タイププロジェクトのスタッフ達に「好きな漢字グリフ」は何かを聞いてみました。これまでの2記事では部首や構成など複数のグリフをまとめて回答しているものを多く紹介しましたが、今回の記事では1つのグリフを挙げているものを紹介します。 ・ 脩: 好きなというのとはちょっと違うかもしれませんが、この道に進む後押しをしてくれた恩師の名前です。 ・ 矢: 一番馴染み深いものだから ・ CID…

フォントを作る人に聞いてみた その2:好きな漢字グリフ2

タイププロジェクトのスタッフ達に「好きな漢字グリフ」は何かを聞いてみました。今回は漢字の構成について言及されていたものを紹介します。 ・ 東: そのフォントのフトコロや重心がよくわかるから。 ・ 愛:よく見るグリフだからというのもありますが、字面、フトコロ、締まり、抑揚など書体のコンセプトや特性がバランス良く判断できるように思います。 ・ 立春大吉のような左右対称の文字: 細か…

フォントを作る人に聞いてみた その2:好きな漢字グリフ1

タイププロジェクトのスタッフ達に「好きな漢字グリフ」は何かを聞いてみました。今回の記事では回答の中でも1つのグリフを挙げるのではなく、部首について言及されていたものを紹介します。 ・ しんにょうの漢字: 特に楷書などで文字の立体感が感じられて好きです。 ・ 「冾」(その他 にすい の漢字): 初めて作った漢字で、先輩デザイナーたちにたくさん見てもらった担当部首だったからです。 …

フォントを作る人に聞いてみた その1:書体デザインに興味を持ったきっかけ2

前回の記事では書体デザインに興味を持ったきっかけについて、学生時代の授業にまつわるものを紹介しましたが、その他に書体デザイナーの回答の中に共通して出てきたキーワードは「レタリング・描き文字」です。 ・ 描き文字(これ、というきっかけはなく複合的なものですが)稲田茂の描き文字が好きで自分でも書くようになり、そこを入り口に書体デザインに興味を持ったと思います。 ・ 自分の名前のレタ…

フォントを作る人に聞いてみた その1:書体デザインに興味を持ったきっかけ1

タイププロジェクトのスタッフ達に「書体デザインに興味を持ったきっかけ」は何かを聞いてみました。 今回の記事では書体デザイナーの回答の中で一番多かった、学生時代の授業がきっかけだったというコメントを紹介します。 ・ 大学1年生のタイポグラフィの授業。小学生の頃から「多くの人が日常的に使うものを作りたいな」という気持ちがあって、プロダクト系を考えたりした時期もありました。それが書体…

フォントを作る人に聞いてみた

本スタッフブログでは様々なカテゴリーの記事を通して書体に関する情報を紹介しています。 その執筆者である書体デザイナーやエンジニアは、文字や書体デザインについてどんな視点やモチベーション持って仕事に取り組んでいるのでしょうか。そんな疑問に答えてもらうべく、本シリーズでは彼らに書体にまつわる質問を投げかけてみました。 「好きな漢字は?」などの好みについての質問から「どのグリフからデ…

書体づくりの舞台裏:視覚調整02「線の太さ」

今回は縦画・横画の太さによる視覚調整のポイントを紹介します。 今回の記事で紹介する縦画・横画は、「下ほど太く」「右ほど太く」というルールに沿って制作することが多い例です。これも前回記事の空き部分と同様で、人の目には上部が膨張して見えるためです。 横画の多い「圭」を例に挙げて紹介します。横画の太さや、横画の間の広さを均一にしてしまうと、上側の「土」の方が大きく見えてしまいます。 …

書体づくりの舞台裏:視覚調整01「空き部分の広さ」

このシリーズでは、書体づくりの視覚調整について紹介します。 今回は「田」を例に紹介します。 書体づくりの大まかなルールとして、「下側を広く」「右側を広く」なるように調整します。これは、人の目には下部より上部の方が、右より左の方が膨張して見える錯視を考慮しています。 シンプルな構造の「田」で説明します。 「田」という漢字は左右対象な形をしていますが、見た時に同じ大きさに見えるよう…

書体制作の舞台裏「TPの書庫、蔵書について」

スタッフブログ「TPの書庫から」ではおすすめの一冊を紹介していますが、タイププロジェクトの書庫にはたくさん蔵書があります。絶版で手に取りづらい本や、文字にまつわる本の多さに入社した当初驚きました。書体、書の本はもちろん、日本語、そのほか言語にまつわるもの、和歌など広く日本文化にまつわるもの、等々種類は多岐にわたります。 それらのほとんどは弊社の鈴木が集めた本で、読んだものは付箋…

書体制作の舞台裏「TP書体をみかけるとき」

電車の車内広告、本の表紙、商品のパッケージ、美術館のサイン、などなど挙げたらきりがないですがタイププロジェクトのフォントは至る所で見かけます。スタッフブログでも使用事例紹介の記事がありますが、見かけたときに社内で報告しあっています。 入社して間もない頃は、通勤中や出かけたとき目に入ってくる文字を見つつタイププロジェクトのフォントを意識的に探すようにしていました。最初は見分けるの…

書体づくりの舞台裏:フォントの赤入れ02「S- S+、C- C+」

前回は簡略化した赤入れとしてW-とW+の紹介をしました。今回ももう少しアルファベットの赤入れを紹介していきます。 Sはサイズの意味で、S-なら「小さく」、S+なら「大きく」という指示です。単純に拡大縮小すると筆画の太さもいっしょに変わってしまうので、太さは変えずに骨格を小さくしたり大きくしたりするようなイメージで修正します。 「医」は文字全体を小さくという指示です。四角い文字は…

書体づくりの舞台裏:フォントの赤入れ01「新人へのチェック、W- W+」

タイププロジェクトでは、赤入れと修正を何度も繰り返してフォントの品質を高めていきます。今回からのシリーズでは、TPスカイファミリー制作時の資料からの赤入れをいくつか取り上げて、その指示内容を紹介していきます。 これは私が入社1年目の時、制作した漢字に先輩が赤入れをしてくれたものです。「紕」は偏と旁の間が狭いから糸偏の幅を狭くしてあいだを少し開けるように、「稱」は「冉」のカウンタ…

書体づくりの舞台裏:Instagram投稿より「フォントに含まれる様々な点」

今回はタイププロジェクトのInstagramから文字の「点」を集めた投稿の紹介です。「点」は文字の中の小さな要素ですが、それでもきちんとその書体らしさが出ています。 あつめた「点」は以下の5種類です。 「活」の一画目 「j」の点 「,」コンマ 「ぶ」の濁点 「ぷ」の半濁点 左は濱明朝 ディスプレイ H、右は金シャチフォント 姫 Bの点です。 濱明朝 ディスプレイはコンマの点から…

書体づくりの舞台裏「目玉」

弊社の以前の作業環境では、元データにエラーのあるグリフを「目玉」と呼ばれるアイコンへ置き換えてフォントを出力する設定がありました。一つ目の黒い球体に無数の枝か触手のようなものが生えたなんとも禍々しい姿をしています。視線を落としているのかこちらを見下ろしているのかわかりませんが、私にはこれが物言いた気な表情に見えなくもないのです。このデザインは、私たちを激励するための開発エンジニ…

書体づくりの舞台裏「豆腐」

表示できないテキストがあるとき代わりに表示される白い四角、これを無くすための戦いは古くから続けられていますが、それでもご覧になったことのある方は多いかと思います。この白い四角は見かけが似ているため「豆腐」と呼ばれることがあります。フォントによって違うデザインを設定できるので白い四角ではないこともあります。 AXIS Fontの場合「豆腐」は白抜きの四角にバツ印のデザインですが、…

書体づくりの舞台裏「Slackのカスタム絵文字作ってみた」

ビジネスチャットツール「Slack」では絵文字でのリアクション機能などがあり、デフォルトの絵文字に加えてカスタム絵文字を登録することができます。 「お願いします」「ありがとうございます」などのカスタム絵文字はちょっとした受け答えにも使えて便利です。しかし、小さな正方形にテキストを収めるため過度な長体変形がされているケースを目にします。そこで今回は、字幅のバリエーションが用意され…

21.11.02シリーズその他 / 機械学習と書体

機械学習と書体03「機械学習を用いた書体の品質保証」

※ 本記事はATypI 2019 Tokyoでの発表を元に作成しています。(https://www.youtube.com/watch?v=va0NnxdgrqA) 書体デザインの品質保証を行うのに、人によるチェックだけではなく、機械学習を用いたチェックが行えると考えられています。一貫した書体を持つ文字は、全ての文字で共通の「書体特徴」を持っていると考えられます。その書体特徴を…

21.09.27シリーズその他 / 機械学習と書体

機械学習と書体02「機械学習を用いた書体デザイン」

※ 本記事はATypI 2019 Tokyoでの発表を元に作成しています。(https://www.youtube.com/watch?v=va0NnxdgrqA) CJK フォントの開発のために機械学習を用いて、書体デザインを自動的に行う研究がいくつかあります。それらの手法では数文字のデザインだけを書体デザイナーが行い、その他の全ての文字を機械学習により自動的にデザインします…

21.09.09シリーズその他 / 機械学習と書体

機械学習と書体01「機械学習と書体開発」

※ 本記事はATypI 2019 Tokyoでの発表を元に作成しています。(https://www.youtube.com/watch?v=va0NnxdgrqA) 人工知能や AI というワードをよく見かけますが、これらに使われている技術が機械学習という手法です。現在、この機械学習を書体開発にも活用するために、世界中で研究が進められています。 書体開発の過程の中で機械学習が活…