漢字制作と部首04「意味から連想」

フォントの一文字一文字から作り手の気分を垣間見ることはなかなか無いかと思います。しかし多くの漢字はそれぞれ意味を持つため、私はその時作っている漢字から色々と連想してしまうことがあるのです。これは部首ごとにも傾向があり、例えば病垂れなら「痛疲痔」などちょっと気分が下がる文字が多く、「癒」もありますが制作においては要素が多くてバランスに気を遣う文字なのでどうにも癒しの時間にはならな…

漢字制作と部首03「作り分け」

フォントで之繞の文字を打ってみると「近送通」と「迚遙迴」のように之繞の点が1つのものと2つのものがあります。他にも、示偏の文字なら「祁祇禰」のような”示”形と「社祝福」のような”ネ”形の2種類です。このようにひとつの部首が複数のバリエーションをもつことがあります。文字セットによっては2種類両方作る文字もあるのですが、2種類目は漢字の意味合いに既視感を覚えつつの制作になります。 …

漢字制作と部首02「呼び名」

それぞれの部首がどう呼ばれているか、「木偏・竹冠・門構」というようにもとの漢字そのままの名前で呼ばれるものの他に、「さんずい」のように一捻りある名前を持つものもあります。例えば「釈釉釋」などの偏「のごめ」、「段穀殿」などの旁「るまた」といった部首は要素を分解した呼び名です。「酢酔酵」の偏「さけのとり・ひよみのとり」や、「照熱然」の脚「れんが・れっか」では名前が被りそうな他の部首…

漢字制作と部首01「多い部首」

漢字は部首で分類できることを以前このブログで紹介しました。部首の分類は辞書によって異なったりもするので数字にはブレがありますが、それでも群を抜いて頻出度の高い部首がいくらかあります。制作中特に多いと感じるのは草冠・木偏・さんずい、そして人偏や手偏なども目立ちます。実際にスタンダード版(StdN)の場合、ワ冠の漢字は10字ちょっとであるのに対し草冠は300字以上と文字数がはっきり…

コピペできない“木”04「太さ」

文字の一体感を出すのに太さの調整は欠かせません。中心に来る「木」は横画の調整が多めで、一文字全体の横画の本数や強く見せるべき筆画を意識しながら太さを合わせていきます。逆に、木偏など縦長の「木」で様々な幅に対応するため調整するのは主に縦画の太さです。ハライについては、横に長いハライなら横画を目安に、縦に長いハライなら縦画を目安にしていますが、画数の多い漢字ではあえて細めにして混雑…

コピペできない“木”03「テンの4画目」

4画目をテンにする「木」があるとシリーズ初回記事で紹介しましたが、このテンは文字に応じて時には他の筆画より大胆と思える程の調整が入ります。木偏などでは右側にくる要素とぶつかりやすいので、小さくしたり起筆の位置を下げたりしてこれを回避しています。どの文字でも小さく統一すれば良いということはなく、空間に余裕があるときは理想的な大きさと位置に整えます。文字全体から見ると小さなテンかも…

コピペできない“木”02「幅と高さ」

「村榑樹」など木偏では「木」が縦長になりますが、右側に来る要素に合わせて「木」の幅を細かく変えています。逆に、高さの調整が必要な「宋栄榮」などの漢字もありますし、「棊」のように被さる要素と合わせるときは幅と高さ両方の調整をします。さらに「保新欝」などであれば小さな「木」が必要です。 一緒になる要素とぶつかってしまうなら、一部の筆画を切るようにして混雑を回避することもあります。こ…

コピペできない“木”01「ハライとテン」

今回からは「木」だけに注目して、漢字制作でどのような調整をしているかの紹介です。「札杉村極機樹呆栄柴新欝…」など「木」が入っている漢字は非常に多く、しかし全ての「木」をコピー&ペーストして使いまわしでは文字として不自然なアウトラインになってしまうので、様々な調整をして一文字一文字に合わせていきます。 まず大きな変更点として、4画目をハライにするかテンにするかの2パターンがありま…

漢字の構成と制作ポイント05「整合性」

一つの部首の作り方に、ある筆画をテンにしたりハライにしたりと、いくつかのパターンが認められている場合があります。文字デザインを広く見たときには自由に選べる選択肢でも、1フォントのデザイン方針の中ではどれか一つだけに限定している場合が多いです。フォントの作りはじめの段階ではいくつかのパターンを試して良いものを選択していき、同じ部首ごとに漢字を並べて異なるパターンのものが混ざってい…

漢字の構成と制作ポイント04「囲む系」

囲む系の部首には「垂(たれ)」「繞(にょう)」「構(かまえ)」があります。囲む側は強め、中に入るものは弱めに見えるよう大きさを調整します。太さについては中に入るものを一段階細く作り、混雑を避け文字全体のトーンをならします。特に太いウエイトになるほどこの一段階で大きく差をつける傾向があります。以前紹介した「縦画は右に行くほど太く、横画は下に行くほど太く」という原則がありますが、こ…

漢字の構成と制作ポイント03「横割り系」

今回は横割り系として、上下分割で構成される漢字の制作ポイントの紹介です。漢字の上側にあるものが「冠(かんむり)」、下側にあるものが「足(あし)」と呼ばれています。 冠ではただ上下に並べるのではなく、被せる・中に入れるといったイメージで作る場合があります。例えば「安」なら「宀」の内側の空間に「女」の頭を食い込ませるようにして作り、見え方としては中の要素に冠が負けないよう調整してい…

漢字の構成と制作ポイント02「縦割り系」

漢字の左側にあるものが「偏(へん)」、右側にあるものが「旁(つくり)」です。今回は偏と旁、縦に分割する構成の漢字を作る時のポイントを紹介します。 横に2つの要素をならべるからといって丁度半分ずつの幅で作っても、大抵の文字は綺麗なバランスに見えません。一文字全体で筆画の密度をならすように左右の構成要素の横幅を調整します。このとき間の空き具合も重要で、それぞれの固まりは見えつつも一…

漢字の構成と制作ポイント01「部首」

漢字は部首によるグループ分けができます。部首とは漢字の一部分で、例えば「焼、炊、炒」はすべて共通の部首をもつ漢字です。この部首は、単体で書く場合が「火」、漢字の左側にあるものが「偏」なので、「火偏」と呼ばれています。火偏なら火に関連する意味であることが多い、というように漢字を覚えたり使ったりする場面で部首はよく意識されますし、読めない漢字でも部首から引けるなど、部首は様々な場面…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン06「ツメ情報」

和文はどの文字も同じ大きさの仮想ボディにデザインするのが基本です。しかし文字の形は一字一字異なっているので組んだ際に文字間のアキがバラついてしまうことがあります。そのバラつき抑えるためにそれぞれの文字や文字同士の組み合わせに対して入れるのがツメ情報です。特に仮名は使用頻度が高く個々の形状にも差が出やすいので満遍なくツメ情報を入れます。対して漢字は文字数が膨大で使用頻度もまちまち…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン05「整合性」

1つの文字でも「筆画を繋げる・離す」といったいくつかのパターンが許容されていることがあります。広い目で見たときには優劣のない違いでも、フォント開発ではコンセプトに合った最適解を検討し、その上で近い要素の整合性をとっていく必要があります。 濱明朝と金シャチフォント 姫の仮名を図に用意しました。どちらも筆で書いたようなデザインですが、筆脈の表現に違いがあり、またフォント内では近い要…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン04「肉付け」

明朝体は書籍の本文などでもよく使用される日本語組版でのスタンダートな書体です。その明朝体の漢字と仮名を見比べると、肉付けがずいぶん異なっています。もともと中国に起源がある明朝体は漢字だけの書体で、筆で書いた文字が木版印刷で効率的に彫刻できるよう整理されていったものが原形です。日本に輸入された後に別途用意された仮名は、筆で書いた楷書をベースに活字向けの調整をしたものでした。さらに…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン03「太さ」

特に太いウェイトを制作する際の注意点として、筆画の太さ調整があります。漢字・ひらがな・カタカナの全ての筆画を数値的に同じ太さにしてもフォントは揃って見えません。 以前「字面」の回でも触れたように、仮名は漢字より画数が少なめでサイズも小さめです。そのため漢字と同じ太さにすると並んだ時に弱く見えてしまいます。付け加えて、この傾向はひらがなよりカタカナの方が強いです。逆に漢字は画数が…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン02「字面」

フォントの各グリフは「仮想ボディ」と呼ばれる四角い枠にデザインします。さらに和文グリフでは仮想ボディから一回り小さい枠「字面」を設定して、文字の大きさを揃える目安にします。この「字面」でも漢字と仮名で違いがあります。仮名は元々漢字の省略から成り立ったため画数が少めで内部の空間が広くなりやすく、漢字と同じ字面に合わせて作ると文字が大きく見えてしまいます。そのため、一般的には仮名の…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン01「骨格」

以前このブログでは「漢字・ひらがな・カタカナの組版」と題し3つの文字種を使った日本語表記の特徴を扱いました。 今回からは目線をデザイン作業に引き寄せ、3つの文字種の形状的な特徴や、複数の文字種を一揃いのフォントにするためにどの様な工夫をしているのか、全6回のシリーズでご紹介します。第1回目の今回のテーマは「骨格」です。漢字の骨格には「横画・縦画・点」などの要素があり、動きの違い…