タイププロジェクトのデザイナーやエンジニアが、書体関連のあれこれを投稿していくブログです。書体デザイン・組版の豆知識や開発の裏話、スタッフおすすめの書籍紹介など幅広い内容でお届けします。

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TPの書庫から『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』

今回は、鈴木俊幸著の『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』を紹介します。山東京伝作の『御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)』を読みながら、江戸の出版事情を解説する内容です。 『御存商売物』は江戸時代に出版された黄表紙(大人向けの読み物、絵本)で「通」な読者へ向けた小ネタが満載、私の所感でまとめると出版物擬人化ラブコメディです。当時の絵本「青本」「赤本」「黒本」や、浮…

書体づくりの舞台裏:Instagram投稿より「フォントに含まれる様々な点」

今回はタイププロジェクトのInstagramから文字の「点」を集めた投稿の紹介です。「点」は文字の中の小さな要素ですが、それでもきちんとその書体らしさが出ています。 あつめた「点」は以下の5種類です。 「活」の一画目 「j」の点 「,」コンマ 「ぶ」の濁点 「ぷ」の半濁点 左は濱明朝 ディスプレイ H、右は金シャチフォント 姫 Bの点です。 濱明朝 ディスプレイはコンマの点から…

TPフォント使用事例紹介「書籍のタイトル その2」

パッケージや書籍、Webサイト、広告など各媒体でのタイププロジェクトのフォントの使われ方を事例を元にご紹介していきます。 今回は、TP明朝* が使用されている書籍をまとめてご紹介します。 *一部調整されている文字も含みます。 「分析哲学 これからとこれまで」 著者:飯田隆 発行:勁草書房 書籍情報:https://www.keisoshobo.co.jp/book/b51021…

漢字と仮名の組み替え02「SST JP」

今回はタイププロジェクトの漢字仮名組み替え事例としてSST JPをご紹介します。 SSTは、ソニー株式会社とMonotype社が共同開発したコーポレートフォントで、ソニーの製品パッケージや名刺などで使用されています。タイププロジェクトはMonotype社より委託を受け、和文フォントであるSST JPを開発しました。ソニーに提示された「プロダクト感」をデザインに展開したオリジナル…

フィットフォントサービスの紹介02「多様なパラメータの調整」

フィットフォントの最も重要な特徴は、欧文フォントにぴったり合った日本語フォントを提供できるという点です。もちろん、このような用途でバリアブルフォントを利用することも可能でしょう。しかし、バリアブルフォントはフィットフォントの代わりにはなりません。フィットフォントは、フィッティングという目的に焦点を当てて開発されてきたからです。 異なる言語のフォントを組み合わせることをタイププロ…

書体づくりの舞台裏「目玉」

弊社の以前の作業環境では、元データにエラーのあるグリフを「目玉」と呼ばれるアイコンへ置き換えてフォントを出力する設定がありました。一つ目の黒い球体に無数の枝か触手のようなものが生えたなんとも禍々しい姿をしています。視線を落としているのかこちらを見下ろしているのかわかりませんが、私にはこれが物言いた気な表情に見えなくもないのです。このデザインは、私たちを激励するための開発エンジニ…

TPの書庫から『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』

今回は、雪朱里著の『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』を紹介します。 以前紹介した『書体が生まれる』の中にも出てきた人物が取り上げられていることや、本書で紹介されている職人や技術者が辿ってきた時代や仕事と、自分の携わっている書体デザインに引き寄せてものづくりや仕事について考えてみたいと思い選書しました。 本書は活字、印刷加工や紙づくりを支えてきた職人や技術者へのイン…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 03「実験!」

このシリーズの前回の記事で「漢字の試作で骨格や太さの調整をした」という話を紹介しましたが、試作段階では他にもさまざまな調整や実験がありました。例えば、字面率を数パーセント毎に刻んだサンプルです。最終的にはギリギリまで大きめの字面率を採用したので、モダンBlkをベタ組にすると文字と文字の間が狭くみっちり並びます。 他にも太さを意識した実験として、平体をかけたサンプルを作ってみたり…

漢字と仮名の組み替え01「既存の組み替え」

和文組版では漢字と仮名を違う書体に組み替える手法がしばしば活用されています。 以前このブログで、明朝体は成り立ちの違う漢字と仮名が組み合わせられていると紹介しました。他に慣習となっている例としては漫画の組版があります。日本では漫画の台詞を組むのに、漢字はゴシック体、仮名は明朝体仮名に近い毛筆の印象がある書体を組み合わせて使うのが一般的です。また和文フォントの中には、漢字と仮名を…

今月の一冊(2022年6月)『「書体」が生まれる』

今回は、雪朱里 著の「『書体』が生まれる」を紹介します。 刊行記念のオンライントークイベントでは、著者の対談相手をタイププロジェクト代表・タイプディレクターの鈴木功が務めました。 本書では、金属活字における書体デザインを大きく変えた「ベントン彫刻機」と、日本における導入のきっかけとなった「三省堂」について、その歴史が描かれています。 かつて、金属活字は種字彫刻師によって彫られて…

書体づくりの舞台裏「豆腐」

表示できないテキストがあるとき代わりに表示される白い四角、これを無くすための戦いは古くから続けられていますが、それでもご覧になったことのある方は多いかと思います。この白い四角は見かけが似ているため「豆腐」と呼ばれることがあります。フォントによって違うデザインを設定できるので白い四角ではないこともあります。 AXIS Fontの場合「豆腐」は白抜きの四角にバツ印のデザインですが、…

Webフォントの概要05「Webフォントの配信形式:セルフホスティング」

Web フォントには、主に「フォント配信サービスの利用」と「セルフホスティング」の2つの配信形式があります。 ここでは「セルフホスティング」について説明します。 セルフホスティングとは、Web サイト制作者がサーバー上にフォントファイルを置き、サイト内で利用する方法です。 閲覧数や設定をあまり気にせず自由に利用できる反面、単にサーバーに置くだけでは、閲覧者に知識がある場合にフォ…

フィットフォントサービスの紹介01「フィットフォントとは」

タイププロジェクトが提供しているフィットフォントは、ウエイトやコントラスト、字幅などのパラメータを自由に調節できるデザインソリューションです。複数の軸のパラメータをシームレスに調整できるという特徴からバリアブルフォントを思い浮かべる方も多いかと思いますが、フィットフォントはバリアブルフォントとは異なる特徴を持っています。 バリアブルフォントがアプリケーション上のスライダーなどで…

TPの書庫から『日本レタリング史』

今回は谷峯藏 著の『日本レタリング史』を紹介します。 寺社扁額の構成書体(タイポグラフィ)さまざま、和様書流の系譜、江戸期各職域のタイポグラフィ、の三章立てで日本のレタリング史について書かれた本です。 巻頭にたっぷりと掲載されている扁額の書跡が、この本を読もうと思ったきっかけでした。個人的に意外で新鮮に感じたのは、楷書や行書の代表作で知られる平安時代の能筆家が、扁額で…

書体づくりの舞台裏「Slackのカスタム絵文字作ってみた」

ビジネスチャットツール「Slack」では絵文字でのリアクション機能などがあり、デフォルトの絵文字に加えてカスタム絵文字を登録することができます。 「お願いします」「ありがとうございます」などのカスタム絵文字はちょっとした受け答えにも使えて便利です。しかし、小さな正方形にテキストを収めるため過度な長体変形がされているケースを目にします。そこで今回は、字幅のバリエーションが用意され…

TPスカイ モダン Blk 開発ストーリー 02「骨格・太さ」

TPスカイ モダン Blkの制作は、TPスカイ ローコントラスト Bから骨格を広げて筆画を太くする作業でした。画数の少ない漢字は骨格を広げるゆとりがあるのですが、画数の多い漢字は太い線が混み合うので筆画を動かす余地が限られています。両者が一つの組版の中に混在しても揃って見えるように試作を重ねながら骨格の広げ具合を調整しました。 スタンダードな和文書体の中では特に太いウエイトを目…

TPの書庫から『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』

今回は、ジャスティン・ハウズ著、後藤吉郎 翻訳の『ジョンストンのロンドン地下鉄書体』を紹介します。 1916年にロンドン交通局のために制作された地下鉄書体のジョンストン・サンズ。本書は書体を制作したエドワード・ジョンストンの功績や書体の制作過程、ブルズアイのロゴやリデザインされたニュー・ジョンストンについてなど豊富な資料とともに紹介、解説されています。 試行錯誤していくつも書か…

漢字・ひらがな・カタカナのデザイン06「ツメ情報」

和文はどの文字も同じ大きさの仮想ボディにデザインするのが基本です。しかし文字の形は一字一字異なっているので組んだ際に文字間のアキがバラついてしまうことがあります。そのバラつき抑えるためにそれぞれの文字や文字同士の組み合わせに対して入れるのがツメ情報です。特に仮名は使用頻度が高く個々の形状にも差が出やすいので満遍なくツメ情報を入れます。対して漢字は文字数が膨大で使用頻度もまちまち…

TPスカイ クラシック欧文開発ストーリー03「制作時にこだわった点」

TPスカイ クラシック欧文としてこだわった点は和文との見え方の調和です。今回はウエイトごとに和文とのなじみを調整し、x-heightを決めています。これはフトコロを引き締め、少し小さく見える和文に対して、欧文がバラバラに見えないようにするためです。様々な比率で検証し、より良い見え方を探り、製品版に至っています。古典的な骨格を持ちながら、落ち着つき、親しみやすい雰囲気をもつクラシ…

Webフォントの概要04「Webフォントの配信形式:フォント配信サービス」

Web フォントには、主に「フォント配信サービスの利用」と「セルフホスティング」の2つの配信形式があります。 ここでは「フォント配信サービスの利用」について説明します。 フォント配信サービスとは、Web フォントを配信するサービスを利用する方法です。フォントデータを自前で持つ必要がありません。 タイププロジェクトのフォントも配信しているREALTYPEや、Adobe CC製品に…