タイププロジェクトのデザイナーやエンジニアが、書体関連のあれこれを投稿していくブログです。書体デザイン・組版の豆知識や開発の裏話、スタッフおすすめの書籍紹介など幅広い内容でお届けします。

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今月の一冊(2024年11月)『そこに文字が』

今回は、金田理恵著の「そこに文字が」を紹介します。 文字に関わる人と、その現場を書き記したエッセイが収録されています。印章店、学級通信、時刻表、台本印刷、酒屋の看板、外国語学習など、普段あまり意識しない文字と人の関係を、ゆっくり堪能できます。 色んな人の、文字との接し方を聞ける一冊です。 文字を作るほど、使うほど、文字は奥深いと常々思いますが、この本を読むと文字はもっと身近な存…

書体づくりの舞台裏:フォントの赤入れ03「<、><」

今回紹介するのはV字の赤入れです。V字は書き込む位置や向きで様々な指示ができます。 要素同士のあいだに書き込まれる1つのV字は「あいだが狭くなっているから、空ける」という指示です。横向きでも縦向きでも使えて、縦向きは上図の「組」のように偏と旁の間に書かれたりします。「穐」は横画を細くしてあいだを空けるといいよ、と先輩からアドバイスをもらったのでメモがしてあります。 向かい合った…

今月の一冊(2024年10月)『人間と文字』

今回は、「人間と文字(監修:矢島文夫 / 構成:田中一光)」を紹介します。 エジプト文字体系、メソポタミア文字体系、アルファベット体系、漢字大体系、未解読を含むその他の文字と、文字体系の歴史を文字の誕生から辿ることができる一冊です。 文字が刻まれた様々な壁画や彫像などの解説、収集の際のエピソード、解読状況や、文字と密接な関係にある「文明」についても解説があります。使われていた文…

フォントを作る人に聞いてみた その2:好きな漢字グリフ3

タイププロジェクトのスタッフ達に「好きな漢字グリフ」は何かを聞いてみました。これまでの2記事では部首や構成など複数のグリフをまとめて回答しているものを多く紹介しましたが、今回の記事では1つのグリフを挙げているものを紹介します。 ・ 脩: 好きなというのとはちょっと違うかもしれませんが、この道に進む後押しをしてくれた恩師の名前です。 ・ 矢: 一番馴染み深いものだから ・ CID…

フォントを作る人に聞いてみた その2:好きな漢字グリフ2

タイププロジェクトのスタッフ達に「好きな漢字グリフ」は何かを聞いてみました。今回は漢字の構成について言及されていたものを紹介します。 ・ 東: そのフォントのフトコロや重心がよくわかるから。 ・ 愛:よく見るグリフだからというのもありますが、字面、フトコロ、締まり、抑揚など書体のコンセプトや特性がバランス良く判断できるように思います。 ・ 立春大吉のような左右対称の文字: 細か…

フォントを作る人に聞いてみた その2:好きな漢字グリフ1

タイププロジェクトのスタッフ達に「好きな漢字グリフ」は何かを聞いてみました。今回の記事では回答の中でも1つのグリフを挙げるのではなく、部首について言及されていたものを紹介します。 ・ しんにょうの漢字: 特に楷書などで文字の立体感が感じられて好きです。 ・ 「冾」(その他 にすい の漢字): 初めて作った漢字で、先輩デザイナーたちにたくさん見てもらった担当部首だったからです。 …

フォントを作る人に聞いてみた その1:書体デザインに興味を持ったきっかけ2

前回の記事では書体デザインに興味を持ったきっかけについて、学生時代の授業にまつわるものを紹介しましたが、その他に書体デザイナーの回答の中に共通して出てきたキーワードは「レタリング・描き文字」です。 ・ 描き文字(これ、というきっかけはなく複合的なものですが)稲田茂の描き文字が好きで自分でも書くようになり、そこを入り口に書体デザインに興味を持ったと思います。 ・ 自分の名前のレタ…

フォントを作る人に聞いてみた その1:書体デザインに興味を持ったきっかけ1

タイププロジェクトのスタッフ達に「書体デザインに興味を持ったきっかけ」は何かを聞いてみました。 今回の記事では書体デザイナーの回答の中で一番多かった、学生時代の授業がきっかけだったというコメントを紹介します。 ・ 大学1年生のタイポグラフィの授業。小学生の頃から「多くの人が日常的に使うものを作りたいな」という気持ちがあって、プロダクト系を考えたりした時期もありました。それが書体…

フォントを作る人に聞いてみた

本スタッフブログでは様々なカテゴリーの記事を通して書体に関する情報を紹介しています。 その執筆者である書体デザイナーやエンジニアは、文字や書体デザインについてどんな視点やモチベーション持って仕事に取り組んでいるのでしょうか。そんな疑問に答えてもらうべく、本シリーズでは彼らに書体にまつわる質問を投げかけてみました。 「好きな漢字は?」などの好みについての質問から「どのグリフからデ…

純明朝 開発ストーリー 3「コントラストの検討:純明朝 ヘッドライン・純明朝 ヘアライン」

純明朝シリーズではコントラストが異なる標準・ヘッドライン・ヘアラインがあります。 エレメントの先端や、漢字の横画の太さの比率で印象が大きく変わるため、何度もテストを行いました。 ヘアラインは極限まで細い数値に設定し、ヘッドラインではやや小さい文字のサイズでも横画が飛ばないギリギリの細さはどのくらいかなどを試しました。標準では各ウエイトでコントラストを変えて、テキストサイズでもす…

今月の一冊(2024年 7月)『[新デザインガイド]日本語のデザイン』

今回は、永原康史著の『[新デザインガイド]日本語のデザイン』を紹介します。 この本では、日本語のデザインはどういう流れがあって現代に至るのかを知ることができます。日本語に文字がない頃からはじまり、書体、テキスト内容、紙面構成、読者層、印刷技術、などさまざまな観点で日本語を見ていく内容です。 現代を生きる自分にはない感覚として面白かったのは、書体と内容の密接な関係です。政治や宗教…

意外と多い仮名系グリフ03「半角、組文字」

前回(濁点・半濁点つき仮名、小書きの仮名)からの応用力が試される半角と組文字の制作ポイントの紹介です。 半角仮名 横幅を50%縮小した後で調整します。特に太いウエイトでは黒味の調整が難しく感じることがあります。縦画横画の太さが自然に見えるバランス、他のグリフと黒味を合わせること、などいくつかの観点に気を配りながらちょうど良いアウトラインを探っていきます。 例えば長体ファミリーが…

TPフォント使用事例紹介 「広告 その1」

パッケージや書籍、Webサイト、広告など各媒体でのタイププロジェクトのフォントの使われ方を事例を元に紹介していきます。 今回は、広告をご紹介します。※一部調整されている文字も含みます。 企画展「アリスの世界展―不思議な冒険の招待状―」告知チラシ 広告主:高知県立文学館URL:https://www.kochi-bungaku.com/exhibition/8473/ 【使用され…

Webフォントの最適化06「size-adjust・ascent-override・descent-override」

Webフォントの最適化01「FOIT・FOUT」にて、Web フォントの課題の一つである FOUT(フォントが入れ替わる際のチラツキ)を紹介しました。 Web フォントの利用の際、切り替わりによってテキストの行数が変化することなどにより、ページのレイアウトが変化してしまいます。これにより、テキストの読み取りの阻害や誤クリックなどのユーザー体験の低下や、CLS(Cumulativ…

意外と多い仮名系グリフ02「濁点・半濁点つき、小書き」

シリーズ前回の記事はグリフ数の話でしたが、今回は作るポイントの紹介です。 濁点・半濁点つきの仮名 元の字にそのまま濁点・半濁点を付け足すだけで上手くいくとは限りません。点がついても元の字と同じくらいの黒味に見えるよう文字全体を少し小さくしたり、点と筆画がかぶってしまわないよう一部を短くしたり、それぞれの文字に合わせて調整します。 元の文字の調整とは別に、濁点・半濁点の配置や大き…

Webフォントの最適化05「unicode-range」

unicode-range は指定することで、そのフォントで表示する文字の Unicode 範囲を指定することができます。 Webフォントのデザインテクニック05「混植してみよう」では、これを利用して混植表示を試みましたが、最適化でも利用することがあります。 unicode-range は、指定した範囲の文字が出てくるまで、そのフォントが読み込まれることはありません。 例えば、…

意外と多い仮名系グリフ01「50字では足りないひらがな」

よく「ひらがな50音」なんて言いますが、フォント制作でひらがなを作るとなると50グリフでは足らず100グリフほど作ることになるのが常です。 濁点付きの「がぎぐ」、半濁点付きの「ぱぴぷ」、よう促音などに使う小書きの「ゃゅょ」、こういったグリフが揃って初めて一般的な文章に対応できるようになります。ここまででもすでに80ほどのグリフが必要です。小書きの仮名は横組用と縦組用とでそれぞれ…

純明朝開発ストーリー2「骨格の特徴 その2」

前回の記事では、純明朝の漢字は縦方向に引き締まっていると書きました。単にフトコロを同じ方向に引き締めればよいのではなく、各々作り方は異なります。純明朝で作り方が特徴的なものや、難しかった例をいくつか挙げてみます。 「日」や「幽」などは他の字とのバランスや大きさ、その字らしいシルエットを意識せずに、縦方向に引き締まった他の字と同じように作ると単に細長くなってしまいます。 「刈」は…

今月の一冊(2024年4月)『明朝体活字 その起源と形成』

今回は、小宮山博史著の『明朝体活字 その起源と形成』を紹介します。 ずっしりと大きめの本で内容もぎっしりと詰まっているのですが、小宮山先生の柔らかな文体と、文章と関連図版を一緒に追えるよう設計された丁寧な紙面で、読み口は優しく感じます。 本書は「もしかすると金属活字の明朝体は中国人ではなくヨーロッパ人が作ったのか?」という疑問から始まりました。そして実際にアジアの国々に留まらず…

純明朝開発ストーリー1「骨格の特徴 その1」

純明朝・純明朝 ヘッドライン・純明朝 ヘアラインで漢字を担当した私は、仮名との関係や、どのような書体を目指すのか、書体の位置付け、新しいものにするにはどのような形になるのかを探りつつ制作を始めました。漢字筆画の細部ももちろんですが、それ以上に骨格に苦心しました。 制作当初から横組みを主眼に置き、縦組みでも実用性を持たせることが念頭にありました。特徴として、仮名はゆったりとした筆…