今月の一冊(2024年11月)『そこに文字が』

今回は、金田理恵著の「そこに文字が」を紹介します。 文字に関わる人と、その現場を書き記したエッセイが収録されています。印章店、学級通信、時刻表、台本印刷、酒屋の看板、外国語学習など、普段あまり意識しない文字と人の関係を、ゆっくり堪能できます。 色んな人の、文字との接し方を聞ける一冊です。 文字を作るほど、使うほど、文字は奥深いと常々思いますが、この本を読むと文字はもっと身近な存…

今月の一冊(2024年10月)『人間と文字』

今回は、「人間と文字(監修:矢島文夫 / 構成:田中一光)」を紹介します。 エジプト文字体系、メソポタミア文字体系、アルファベット体系、漢字大体系、未解読を含むその他の文字と、文字体系の歴史を文字の誕生から辿ることができる一冊です。 文字が刻まれた様々な壁画や彫像などの解説、収集の際のエピソード、解読状況や、文字と密接な関係にある「文明」についても解説があります。使われていた文…

今月の一冊(2024年 7月)『[新デザインガイド]日本語のデザイン』

今回は、永原康史著の『[新デザインガイド]日本語のデザイン』を紹介します。 この本では、日本語のデザインはどういう流れがあって現代に至るのかを知ることができます。日本語に文字がない頃からはじまり、書体、テキスト内容、紙面構成、読者層、印刷技術、などさまざまな観点で日本語を見ていく内容です。 現代を生きる自分にはない感覚として面白かったのは、書体と内容の密接な関係です。政治や宗教…

今月の一冊(2024年4月)『明朝体活字 その起源と形成』

今回は、小宮山博史著の『明朝体活字 その起源と形成』を紹介します。 ずっしりと大きめの本で内容もぎっしりと詰まっているのですが、小宮山先生の柔らかな文体と、文章と関連図版を一緒に追えるよう設計された丁寧な紙面で、読み口は優しく感じます。 本書は「もしかすると金属活字の明朝体は中国人ではなくヨーロッパ人が作ったのか?」という疑問から始まりました。そして実際にアジアの国々に留まらず…

今月の一冊(2024年2月)「タイポさんぽ―路上の文字観察」

今回は、藤本健太郎著の『タイポさんぽ―路上の文字観察』をご紹介します。 本書は著者が日本各地の路上で見つけた、看板や商品ロゴなどの文字たちとの出会いを記録したものです。自ら撮影した写真とグラフィックデザイナーである著者の視点から綴られた文章で120余りの事例が紹介されています。 本書で紹介されているのは、どれもアナログな手仕事の文字たちです。街の中で時代を経た姿は、現代のデジタ…

今月の一冊(2023年9月)『味岡伸太郎 書体講座』

今回は、味岡伸太郎著の『味岡伸太郎 書体講座』を紹介します。 本書はグラフィックデザイナーでもあり明朝体フォント「味明」シリーズを手がけた味岡伸太郎氏による書体、タイポグラフィに関する文章が収録されています。書体を作るに至った経緯、字体や書体、著作権等について論じられています。本全体が著者の手掛けた書体で組まれていて、書体の見本帳にもなっています。 「縦組横組考」の章では縦組が…

今月の一冊(2023年7月)『活字に憑かれた男たち』

今回は、片塩二朗著の『活字に憑かれた男たち』を紹介します。 昭和初期の日本を中心に、年号や国を跨ぎながら11人の活字版印刷に深く関わる人物を取り上げています。日本の活字文化の歴史を知るのにおすすめの一冊です。歴史の中で様々な活字が開発され、しかしせっかく揃えられた活字も、多くが戦禍を被り溶かされました。淡々とした歴史書ではなく、それぞれの人物にまつわるエピソードや当時の世情とと…

TPの書庫から『時代をひらく書体をつくる。』

今回は、雪朱里著の『時代をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』を紹介します。 本書は、活字・写植・デジタルフォントの三世代に渡って書体を制作、監修し、重要な部分を築いてきた橋本和夫さんのインタビューを通して日本語書体の流れについて触れられる内容になっています。 橋本さんが携わり、各時代を取り巻く環境のもとで作られ使われ…

TPの書庫から『江戸の瓦版-庶民を熱狂させたメディアの正体-』

今回は、森田健司著の『江戸の瓦版-庶民を熱狂させたメディアの正体-』を紹介します。 売り子は顔を隠し、作り手の名前もわからない。「瓦版」はそんな怪しげな非合法の印刷物でしたが、江戸から明治にかけて庶民を夢中にさせました。本書ではその瓦版の出版事情や実際に注目された記事が紹介されています。 瓦版はただ無機質に事実を報道するのではなく、分かりやすく面白くニュースを編集して伝えること…

TPの書庫から『書体を創る』

今回は、林隆男著の『書体を創る 林隆男タイプフェイス論集』を紹介します。 本書はタイプバンクの創立者、林隆男さんの追悼として刊行された一冊です。雑誌などに寄稿された書体に関する林さんの論文やインタビューと、親交の深かったデザイナーなど数々の人物から林さんへ寄せられた文章で構成されています。 論集は、フォントの基礎、書体の保護について、またデザインの側面からのみならず、印刷など出…

TPの書庫から『文字の文化史』

今回は、藤枝晃著の『文字の文化史』を紹介します。 本書には象形文字から始まり漢字の誕生、印刷に至るまでの歴史や書体の変遷が書かれています。写経など貴重な図版も豊富です。 皇帝の文字、臣下の文字など現在までに生まれた書体がどのような立場の人のためのもので、その限られた人のものから万人のものになるまでの経緯は興味深かったです。 文字の造形や筆法にのみ焦点を当てたものではなく、筆など…

今月の一冊(2023年2月)『The Visual History of Type』

今回は、Paul McNeil著、『The Visual History of Type』を紹介します。 本書は1400年代から2000年頃までの厳選された欧文書体を紹介しています。構成はシンプルで、見開きに一書体の見本帳図版、その解説が載っています。そして特筆すべきはその量です。約600年に渡る320書体以上が年代順に並べられ、ページをめくるとともに書体の歴史を感じることがで…

TPの書庫から「明朝体の歴史」

今回は、竹村真一著の『明朝体の歴史』を紹介します。 本書は紙や布についてや印刷の起源から始まり、文字や書体の変遷、中国での明朝体の発生にいたるまでの経緯、そして日本に伝わって定着するまでの過程がまとめられています。 楷書が変形してどのように明朝体になっていったかについての章では、版下となる書かれた文字と書いた人に対する気持ちや、書道的な持ち味を捨てられずに残った楷書の筆跡が明朝…

今月の一冊(2022年12月)『Reading Letters』

今回は、Sofie Beier著、『Reading Letters』を紹介します。 本書は書体の視認性ついて詳しく解説しています。一見硬いテーマですが、見るだけで納得がいく図版も豊富に取り入れている為、簡単に理解できるように工夫されています。また、視認性という大きなテーマはありつつ、文字の歴史、形状、視点移動や人と文字との距離などといった本当に様々な方面から掘り下げているため飽…

TPの書庫から『祈りの文字』『町まちの文字』

今回は、蓜島庸二著の『町まちの文字』と『祈りの文字』を紹介します。 『町まちの文字』は看板や暖簾、『祈りの文字』は扁額やお札など、たくさんの写真と共に筆者やその知人が訪ねた文字が紹介された本です。 『町まちの文字』『祈りの文字』を合冊・再編集した『町まちの文字 完全版』もあります。 『町まちの文字』は「ちょうちん屋復権ー序にかえてー」というテキストから始まりました。書道で一気に…

今月の一冊(2022年10月)『SANS SERIF』

今回は、CEES W. DE JONG著、『SANS SERIF』を紹介します。 本書は1900年から2000年頃までの30種以上の主要なサンセリフを取り上げ、豊富な図版、解説とともに紹介しています。 サンセリフにだけに絞った書籍は珍しく、焦点を絞りやすいのが良いところです。また、時代に沿った構成になっており今も使われている書体はこの時代に生まれたのか、この時代にはこれが流行っ…

TPの書庫から『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』

今回は、鈴木俊幸著の『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』を紹介します。山東京伝作の『御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)』を読みながら、江戸の出版事情を解説する内容です。 『御存商売物』は江戸時代に出版された黄表紙(大人向けの読み物、絵本)で「通」な読者へ向けた小ネタが満載、私の所感でまとめると出版物擬人化ラブコメディです。当時の絵本「青本」「赤本」「黒本」や、浮…

TPの書庫から『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』

今回は、雪朱里著の『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』を紹介します。 以前紹介した『書体が生まれる』の中にも出てきた人物が取り上げられていることや、本書で紹介されている職人や技術者が辿ってきた時代や仕事と、自分の携わっている書体デザインに引き寄せてものづくりや仕事について考えてみたいと思い選書しました。 本書は活字、印刷加工や紙づくりを支えてきた職人や技術者へのイン…

今月の一冊(2022年6月)『「書体」が生まれる』

今回は、雪朱里 著の「『書体』が生まれる」を紹介します。 刊行記念のオンライントークイベントでは、著者の対談相手をタイププロジェクト代表・タイプディレクターの鈴木功が務めました。 本書では、金属活字における書体デザインを大きく変えた「ベントン彫刻機」と、日本における導入のきっかけとなった「三省堂」について、その歴史が描かれています。 かつて、金属活字は種字彫刻師によって彫られて…

TPの書庫から『日本レタリング史』

今回は谷峯藏 著の『日本レタリング史』を紹介します。 寺社扁額の構成書体(タイポグラフィ)さまざま、和様書流の系譜、江戸期各職域のタイポグラフィ、の三章立てで日本のレタリング史について書かれた本です。 巻頭にたっぷりと掲載されている扁額の書跡が、この本を読もうと思ったきっかけでした。個人的に意外で新鮮に感じたのは、楷書や行書の代表作で知られる平安時代の能筆家が、扁額で…