TPの書庫から『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』

今回は、鈴木俊幸著の『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』を紹介します。山東京伝作の『御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)』を読みながら、江戸の出版事情を解説する内容です。

『御存商売物』は江戸時代に出版された黄表紙(大人向けの読み物、絵本)で「通」な読者へ向けた小ネタが満載、私の所感でまとめると出版物擬人化ラブコメディです。当時の絵本「青本」「赤本」「黒本」や、浮世絵の「一枚絵」「錦絵」、言わずと知れた「源氏物語」や「徒然草」まで擬人化されて、お江戸の街でてんやわんや。奥深く見事な笑いに満ちた絵本ですが、現代人にはわかりづらい内容も多く、そこでこの本の細かな解説に助けられます。江戸の出版事情と通な笑いを合わせて楽しく勉強することができました。とはいえ、山東京伝もまさか200年以上経って当時向けの洒落を懇切丁寧に解説されるなどと思っていたでしょうか。

現代でも擬人化は知られた表現で、サブカルチャーでは刀・軍艦・競走馬などと賑わいを見せています。楽しく勉強する一方、遠い先達を知るような心地でこの本を読みました。擬人化を通して新しい分野と出会う経験をしたことがある方もいるかと思いますが、次は江戸の出版物なんていかがでしょうか。

続いてタイププロジェクトの代表・鈴木功から『江戸の本づくし-黄表紙で読む江戸の出版事情-』へのコメントと関連書籍の紹介です。

『江戸の本づくし』で娯楽冊子の豊穣な世界を楽しんだあとは、一枚(もしくは数枚)の速報メディア「かわら版」に焦点をあてた『江戸の瓦版』はどうだろう。
瓦版は、最初官報からはじまったが、しだいに下世話な話題を取り扱うようになり、これが江戸時代の庶民を喜ばせた。浮世絵の巧緻繊細な技術からほど遠い、稚拙で大ざっぱな刷り物だが、安価な一枚刷りならではの生き生きとした表現が瓦版の持ち味といえよう。

江戸時代の庶民は、さまざまな方法で洒落のめし、横柄な時の権力にあらがった。権力に抗した出版人は刑を受けたが、意気地を大事にした江戸っ子はこれを讃えた。たんなる生真面目が権力に弱いことを、市井の人たちは十分に心得ていたのである。

瓦版は普及まもなく発禁になった。読売と呼ばれた売り子は、編み笠で顔を隠し、二人一組みとなって官の目を逃れようとしたようだ。しかし、三味線片手にダミ声で瓦版の一節を読み上げて売り歩くそれは、パフォーマンスの色が濃い。したたかなものだ。

書籍情報:

『江戸の本づくし』

著者:鈴木俊幸

発行:平凡社

購入情報:

平凡社
https://www.heibonsha.co.jp/book/b163514.html

書籍情報:

『江戸の瓦版』

著者:森田健司

発行:洋泉社

購入情報:

https://www.amazon.co.jp/dp/4800312744/ref=cm_sw_r_tw_dp_FWC5SYCKQ5NJPYDGKBE3


(担当T)

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