今回は、雪朱里著の『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』を紹介します。
以前紹介した『書体が生まれる』の中にも出てきた人物が取り上げられていることや、本書で紹介されている職人や技術者が辿ってきた時代や仕事と、自分の携わっている書体デザインに引き寄せてものづくりや仕事について考えてみたいと思い選書しました。
本書は活字、印刷加工や紙づくりを支えてきた職人や技術者へのインタビューがまとめられています。仕事内容やそのこだわりについてだけでなく、仕事に就いた経緯などその人の人生にも触れられています。植字工の森修治さんの章で、テキストを流し込んだりコピー&ペーストできる現在の組版とは違い、一度できた組版を修正する際に数文字追加になれば活字や込め物を一つ一つ手で後ろに送るなど全て手作業で行っているという仕事内容から、普段のパソコン上での書体作りでは文字を「モノ」として実感できないことを思いました。職人や技術者の人々が全身での感覚を大切に仕事をしていて、書体を作る上での自分の感覚について立ち返って読みました。
目にしたり手に取るものの向こうに作った人がいて、その仕事の手触りが感じられる内容で、書体が人の手によって作られていると知ったときの驚きを思い出しました。仕事への向き合い方や考え方の大きなヒントになる一冊です。文字だけでなく、紙や印刷物などのものづくりに興味のある方にもおすすめです。
続いて『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』に関連して弊社の鈴木から選書へのコメントです。
名人クラスの職人といえど、その多くは名前を知られることなく埋もれていく。本書に登場する34人の名工は、仕合わせなことに(もちろん我々にとって)現場で叩き上げた人でしか語れない言葉が記録された。幸いにも、輝く表情を現場でとらえた肖像とともに。 『日本の名匠』を書いた海音寺潮五郎は、史料と想像力を交え、安土桃山・江戸時代を生きた刀匠と陶工の姿をあぶり出した。その骨太で簡潔な文体が、内にたぎるものを抱えた職人を描くのにふさわしく滋味深い。
書籍情報:
『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』
著者:雪朱里
発行:グラフィック社
購入情報:
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=40099
書籍情報:
『日本の名匠』
著者:海音寺潮五郎
発行:中央公論新社
購入情報:
https://www.amazon.co.jp/日本の名匠-中公文庫-海音寺-潮五郎/dp/4122045584
(RK)