今回は、雪朱里著の『時代をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』を紹介します。
本書は、活字・写植・デジタルフォントの三世代に渡って書体を制作、監修し、重要な部分を築いてきた橋本和夫さんのインタビューを通して日本語書体の流れについて触れられる内容になっています。
橋本さんが携わり、各時代を取り巻く環境のもとで作られ使われた数々の書体がどのように生まれたかや、現在と地続きの書体制作の現場の細かい内容も載っており、自分の日々の仕事を振り返りながら読みました。
書道やレタリングの文字との違いや書体としての文字に求められること、品質の高い書体を作ることについて書かれているところを読み、文字を作る中でひとまとまりの「書体」としての意識が欠けていたときに理解しているつもりで分かっていなかった部分に気づくことが多かったです。 書体を作る人や書体に関わる人へ橋本さんからの言葉が詰まった一冊でした。
堅いと思われるような書体デザインの流れや歴史でも、ページごとに専門用語の解説や図版なども豊富に載っているので、日本語書体について少し踏み込んで知りたい方やこれから書体を作りたいと考えている方にもおすすめです。
続いて『時代をひらく書体をつくる。』に関連して弊社の鈴木から選書へのコメントです。
『時代をひらく書体をつくる。』と『ぼくのつくった書体の話』の二書を読めば、写真植字からデジタルフォントに至る和文書体のデザイン史を、おおよそ見渡すことができる。橋本和夫、小塚昌彦、両氏が果たした役割の大きさについては書籍を読んでいただくとして、今後の課題は、ここに含まれない重要な書体とその作り手に関する記録ということになろうかと思う。
ここ十数年は、字游工房の鳥海修さんとフォントワークスの藤田重信さんの露出度が突出しており、同世代の優れた書体デザイナーである金井和夫さん、佐藤豊さん、今田欣一さんの取り組みが語られる場面は目立って少ない。
橋本さんと小塚さんの仕事が金属活字の系譜にあるとすれば、鳥海さん始め次の世代の書体デザイナーには、レタリングと写真植字のありようが少なからず影響を及ぼしていると考えられる。書体を形なさしめる技術および時代背景に思いを致すという意味でも、『時代をひらく書体をつくる。』と『ぼくのつくった書体の話』の価値は高いといえよう。
書籍情報:
『書体をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』
著者:雪朱里
発行:グラフィック社
購入情報:
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=43075
書籍情報:
『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』
著者:小塚昌彦
発行:グラフィック社
購入情報:
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=30248
(RK)