欧文イタリック06「イタリックの傾斜2」

本シリーズの前回記事「イタリックの傾斜角1」では、正体とイタリックを比較してイタリックをどれだけ傾けるかという話をしました。今回は、ひとつのイタリック書体の中でのそれぞれの文字の角度について取り上げたいと思います。

ひとつのイタリックの書体の中でも全てのグリフが幾何学的に同じ角度に傾いているというわけではありません。グリフごとに角度に変化をつける理由は大きく分けて2つあります。

1つ目は、見た目上全てのグリフが同じ角度に傾斜しているよう見せるための視覚調整です。人間の視覚には錯視と呼ばれる錯覚があり、幾何学的に均一に描かれた図や線が見た目上は歪んで見えてしまうという状況が多々あります。この錯視は図形の角度を揃える時にも影響を及ぼします。特に書体ではグリフによって大きさや形状が異なるので、数値的に同じ角度で傾斜させても各グリフを構成する図形の特徴が影響して見た目上の角度はバラバラになってしまいます。

背の高いグリフ、低いグリフ、円形のものや四角いものなど、それぞれの形状に合わせてデザイナーは細かいバランス調整を行います。ローマン体のようにセリフなど装飾的な要素が多い書体では、それらの要素の大小や位置も傾き具合に影響してきます。傾斜角が大きいほどこのバラつきは目立ってくるので、傾きの強いイタリックなどを制作する時には注意が必要です。

視覚調整とは別に、あえて見た目上もグリフごとに傾斜角を変えている書体もあります。意図や変化の出し方はデザイナーによって様々ですが、変化をつけることで組まれたときの見た目にリズムを与えたり、それぞれの文字の判別性を高めることができます。何百年も前の金属活字にも傾斜の不揃いな書体が多く存在しています。どう言った意図があったのか詳細は不明で、中には読みづらいと感じてしまうものもありますが、その書体の個性やデザイン要素の一つとして見ることもできます。

視覚調整もデザイン要素としての角度変化もとても細かい調整作業です。やりすぎは読みづらさや違和感に繋がってしまうので、書体デザイナーは数ミリ単位のとても微妙な変化でバランス調整をしています。

(XYZ)

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