【メディア掲載】マイナビ出版「+DESIGNING」

VOLUME 42 掲載記事 第1回
フォントメーカーの枠組みを超えた活動を続ける、タイププロジェクト

価値を変え、環境を整え、文化を支え、生活に根ざす。 タイププロジェクトが目指す、文字の姿。

デザイン誌『AXIS』の専用フォント作成からウエイトとコントラストを自由に組み合せることができるフィットフォント、都市フォントプロジェクトやフォント試作ツールの提供など、独自の展開を続ける、タイププロジェクトの目指すものとは。

もの、ひとの価値を高める文字(1)

フォントメーカーの枠組みを超えた活動を続ける、タイププロジェクト

デザイン誌『AXIS』専用として作成された「AXIS Font」や、地域や生活に根ざし、文化的背景や方言までを表現しようとする試みの「都市(シティ)フォントプロジェクト」、ウエイトやコントラストをカスタマイズして多様なニーズに応えることを可能にしたフィットフォントなど、ユニークな取り組みを続けるタイププロジェクト。他メーカーに比べれば、リリースしているフォントこそ多くはないが、タイププロジェクトの文字は確実に、着実に世の中に広がっている。今回は代表の鈴木功氏に、これまでの仕事を振り返りながら、タイププロジェクトの考えるフォントの在りかたと、社会との関わり、フォントメーカーとして目指す方向をお伺いした。

AXIS Fontがはじめて採用された『AXIS』2001年10月号。AXIS Font開発の経緯を紹介する記事もあわせて掲載された。

タイププロジェクト誕生前夜

ほかのフォントメーカーにはないユニークな取り組みを続けるタイププロジェクト設立に到るまでの経緯はどのようなものだったのだろうか。「実は小さいころから文字に興味があったわけではありません。漫画やアニメや特撮など、1970年代から80年代のさまざまな分野のコンテンツを糧に育ってきました。僕はずっと漫画家になりたかったんです」

美術系の大学へ進み、メディアとしての漢字、デザインとしての漢字のおもしろさに気付く。「書体を作ろうと思って大学を選んだわけではなかったんですが、大学3年の時に中国からの留学生と会って、メディアとしての漢字、デザインとしての漢字というものに気付きました。それから漢字の起源とか構造原理、部首法といった漢字のおもしろさに取り憑かれていました。ただ、それで就職するあてもなく、大学を出てなにもしないというのはいけないと焦り出した時期に、非常勤講師として愛知芸大に来られていた小塚さんにお会いして、アドビシステムズに入り、書体をデザインする職業に就いたのがはじまりです」

アドビ システムズに7年間在籍しタイプデザイナーを務めたあと、タイププロジェクトを設立するきっかけは何だったのだろうか。「いくつかの理由があるのですが、1997年にイギリスで開かれた国際タイポグラフィ協会のイベントで、タイプデザイナーのジャン・フランソワ・ポルシェからル・モンド紙の専用フォントを作ったという話を聞いたことが挙げられます。ポルシェが手がけたような仕事が日本ではあるのか気になって調べてみたら、金属活字では大手新聞社や出版社が独自のものを持っている例はあったものの、デジタルフォントではほとんどなかった。そこで特定の媒体のための専用フォントを作りたくて仕方なくなって。そして、タイププロジェクトを設立しました」

左:AXIS Font 採用からちょうど5年後の『AXIS』2006年10月号からは、AXIS Fontコンデンス、AXIS Fontコンプレスが登場
右:『AXIS』2016年8月号より。リリース以降15年が経過した今でも、本文は継続的にAXIS Font ベーシックが使われているほか、表紙や記事タイトル等にはコンデンス、コンプレスもよく使われている。AXIS Latin Proの登場によって、英文のイタリック表記などの処理がよりやりやすくなったという

AXIS Fontの誕生と展開

鈴木氏は1997年のイベント後、媒体の専用フォント作成に取りかかり、デザイン雑誌『AXIS』へ持ち込んだ。「最初に作ったプロトタイプは、今のAXIS Fontとは違うものでした。横組み専用のサンセリフというところは変わっていないのですが、もっとベースラインシステムに乗っ取ったような、日本語フォントにすると少し無理があるようなかたちのものでした。ただ、専用フォントという考えかた自体には、おおいに話が盛り上がりました。そして、今のAXIS Fontと基本的にはそんなに変わらない第2弾のプロトタイプを持っていったときには、かなり反応がよく、『AXIS』誌の20周年に間に合うように作成を進めていきました」

そもそも新しいフォントの提案先として『AXIS』を選んだ理由について鈴木氏はこう語った。「日本で媒体の専用フォントがあるのかと調べたら、大手新聞社や出版社がお金をかけてやるものだという傾向だったんですね。雑誌などでもそういったものを採用しているという情報はほとんどありませんでした。たくさんの雑誌があるなかで、ここだったら専用フォントに興味を持ってくれるんじゃないかという唯一の媒体が『AXIS』でした」『AXIS』誌の当時の最新号からバックナンバーまでを徹底的に読み込んだ鈴木氏は、“ニュートラルなフォント”、“風通しのいいフォント”ということをキーワードとして考えていた。

すべてのはじまり・AXIS Font。Condensed、Compressedへの展開
タイププロジェクトの原点であり、根幹とも言えるのが、日本語サンセリフ書体「AXIS Font」だ。ベーシックは2001 年、コンプレスは2009 年にリリースされたが、ウエイト+字幅の構想は初期からあったといい、のちのフィットフォントによってさらに拡張されていく。

そしてこのとき、すでに現在のラインナップにつながるAXIS Fontの構想はあったという。「ウエイトの展開に加えて、ベーシック・コンデンス・コンプレスという字幅のバリエーションを作るという構想は、最初のプロトタイプのときからありました。“AXIS”というのは、“軸”という意味ですから、そういう複数の“軸”を持った日本語フォントを作るんだ、ということを考えていたんです」

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