TPアイリス

概要

タイププロジェクトでは、季節の風物を反映した書体をデザインし、四季折々の空気を文字にまとわせ、日本語をよりゆたかに、より繊細に表現する取り組みとして四季フォントプロジェクトを立ち上げました。その第一弾となるTPアイリスは、初夏を代表する花「あやめ」「かきつばた」をイメージした端麗な書体で、古典的な書体に範をとりながら、現代的な用途に適う使い勝手の良いサンセリフ体です。仮名は優美な平安王朝の仮名を基本にし、欧文は16世紀ごろに発展した典雅な筆記書体をモデルにしています。そして漢字は、楷書の骨格を現代化したTPスカイ クラシックを採用しています。

四季折々のシリーズでは、さまざまな時代の古典に学び、広く世界の文化・芸術からエッセンスを吸収し、現代に適した新しいフォントを開発します。TPアイリスでは、よりどころにした古典に今の感覚を取り入れたことで、審美性と実用性を併せもつ書体になっています。詩歌や文芸はもちろん、童話や歌詞など、韻律を大事にしたい詞章の表現に力を発揮します。

古典を核にし、大胆にディテールを刷新したハイコントラスト。広範な用途に安心して使えるミドルコントラスト。そして、現代的な表情が新鮮なローコントラスト。良質な文化を糧としたTPアイリスは、日本語の響きを大事にしつつ、和欧のコンビネーションによって新しい音色を奏でる書体ファミリーです。

コンセプト

古今東西の良質な文化を受け継ぎ、文字・書体を通して未来に送り届ける–それが四季フォントプロジェクトのコンセプトです。TPアイリスは、鋭い剣葉を彷彿とさせるハイコントラストのストローク形状と濃艶な紫色の花弁を思わせる太いウエイト、そして細いウエイトでは初夏の爽やかな風を感じさせるフォントです。

アイリスは、あやめ・かきつばた・花菖蒲などイリス属の総称で、ジャーマンアイリスやダッチアイリスをはじめ、ヨーロッパでも広く見ることができます。イリスの語源は、ギリシャ神話に登場する虹の女神イーリスです。イリス属のなかでも花菖蒲は変種が多く色もさまざまで、虹の喩えがふさわしい花です。

移ろう自然の姿を書体のデザインに投影するTPアイリスのアプローチは、都市フォントプロジェクトで培った、文化資源を書体に取り込む手法を応用したものです。四季の風物を書体に取り込み、サンセリフ体のカテゴリーに彩りを加える。TPアイリスの背景にはそんな狙いもあります。

特徴

TPアイリスのユニークな点は、仮名の起筆に特徴的に表れています。通常の和文サンセリフは、起筆の形状を切り落としますが、TPアイリスは、和様の雰囲気をあらわす重要な要素として起筆をあつかいました。

平安王朝の女手*に範をとった仮名は、縦組みでその真価を発揮します。とりわけハイコントラストの細いウエイトは、デザインのみなもとにした行成流の仮名*に近いたたずまいです。

*女手：平安時代に漢字の使用が制限されていた女性たちが、歌や日記などで平仮名を使ったことに由来
*行成流の仮名：藤原行成を祖とする書道の流派の一つ

欧文ではそれぞれのコントラストの特徴に合わせて起筆・終筆の形状や角度を変えています。ローコントラストでは仮名との統一感を高め、優美な雰囲気を出すためにやや鋭角な先端にしています。また、ハイコントラストでは筆記具である平ペンの特徴を残した角度や形状を採用しました。

TPアイリスの和文と欧文の調和を図るにあたり、たんに見た目を近づけるのではなく、和殴それぞれのルーツを大事にした上で、双方の個性を引き立てるデザインを試みました。横組みでは、欧文のアセンダー・ディセンダーの振り幅と、仮名の縦横プロポーションの抑揚が響き合います。

欧文のカリグラフィックなデザインとの相性を高めるため、デフォルトのライニング数字に加えてオールドスタイル数字も文字セットに含まれています。数字ごとに高さの異なるオールドスタイル数字は組版に上下のリズムを生み、小文字が多く使用される欧文テキストにも自然に馴染みます。

ファミリー

TPアイリスは、ハイ・ミドル・ローの３つのコントラストと５つのウエイトで構成された15フォントの書体ファミリーです。モデルにした古典の香りがきわだつハイコントラストは、とりわけLとRのウエイトで繊細な美しさを発揮します。小さいサイズでも読みやすく表示適性が高いのはミドルコントラストです。特に、欧文のモデルとして参照した書体の一つであるアリッギの書風*に近いのがミドルコントラストのRです。ローコントラストは、現代的な文章によく合い、横で組んだときに生まれる独特のリズムには、縦組みとはまた別の魅力があります。

*アリッギの書風：イタリアの書家、活字デザイナーのルドヴィコ・デリ・アリッギが自身の書法教科書などに用いた書風。15-16世紀にローマ教皇庁の書記官たちが速記用に使用した書風から発展し、チャンセリー・カーシヴ（教皇庁の筆記体）などと呼ばれる。

仕様