ADCグランプリ「INDUSTRIAL JP」のフォント
約8000点の応募作品の中から、ADC(東京アートディレクターズクラブ)による2017年のADCグランプリを獲得したのは、町工場6社による「INDUSTRIAL JP」のWebサイトと映像でした。そのWebサイトのアートディレクションからデザイン、フロントエンドエンジニアリングまでのすべてを担当したのは、DELTRO INC.(デルトロ)のアートディレクター/デザイナーの坂本政則氏と、テクニカルディレクター/プログラマーの村山健氏です。 デルトロは、坂本政則氏と村山健氏が2009年に設立したデザインファームで、Webサイトやアプリケーション、デジタルサイネージなどのオンスクリーン・メディア、グラフィックデザインやインスタレーションなど、主に広告プロジェクト分野で活躍しています。
「INDUSTRIAL JP」は、町工場の音楽レーベル化として発信することを目的として、町工場の製造現場で採取した機械音をサンプリングし、ミュージシャンがオリジナル楽曲を作成しています。また。製造工程を撮影した動画とミックスすることでミュージックビデオも制作しています。そして、「INDUSTRIAL JP」のWebサイトでは、AXIS Fontコンデンスが使われています。 このプロジェクトは、「町工場や中小企業のために、クリエイティブの力でできることは何か」という、町工場の社長と電通のクリエイティブディレクターとの議論から始まりました。「INDUSTRIAL JP」は、その議論に対し、アートディレクター/グラフィックデザイナーである、下浜臨太郎氏が発案したプロジェクトで、サウンドディレクターの木村年秀氏(MOODMAN)を含めたメンバーが主体となり、全体のプランニングや映像のディレクションおよびマネージメントなどが行われました。 坂本氏は、「デルトロでは、Webサイトのプランニング、アートディレクション、デザイン、フロントエンドエンジニアリングに関してのお手伝いをしています。『INDUSTRIAL JP』のミュージックビデオは、工作機械が反復するアルゴリズムと、同じく一定のリズムを刻むテクノサウンドにより成り立っています。Webサイトでは、その質感とそれらの背景にある、工業機器、電子回路図、DAWソフトウェア、フィジカルコントローラーなどの要素を融合させた質感を目指し、アートディレクション、デザインを行いました」と述べています。 坂本氏は高校時代に、機械設計(CAD)や溶接、プログラミングといった一連の機械技術を学びました。書体選定においては、その当時に毎日のように見ていた、CADフォントや製図用テンプレート文字、金属板打刻文字などを想起させる印象を持つ書体を採用することを考えたといいます。 「装飾性が限りなく少なく、幾何学的にも見え、ウエイトはできるだけ細く、小さなスペースに必要な情報をより多く記述できるコンデンス体。といった視覚的なイメージを絞っていくプロセスにより、Univers Next+AXIS Fontコンデンスの混植という組み合わせを導き出しました。AXIS Fontの思想とは全く違うアプローチからの選定ですが、標識や携帯デバイスなど、表示面積の制約を考慮した設計から生まれたコンデンスの佇まいは、工業的な雰囲気をも持ち合わせているのだと認識しました」
坂本氏は、大手企業のWebサイトの再構築も多く手がけています。最近の傾向として、PCからタブレット、スマートフォンまで、あらゆる画面サイズやさまざまな条件を満たす設計をする必要があるといいます。企業やブランドの持つ思想やトーンを体現することに加え、時代の流れに対しての不変性や耐久性、使いやすさ、速度などの面からも検証し、顧客企業の要望を実現します。ブランディングにおいて、文字とピクトグラムは非常に重要な要素のひとつになっています。デルトロでは、プロジェクトごとに、顧客企業やブランドに最適なピクトグラムをフルスクラッチするとともに、欧文フォントの開発も行なっています。 「AXIS Fontは、発表当時から知っていました。日本語サンセリフ体として、和欧混植への親和性が非常に高く、透明感があり、すっと雑音なく言葉が入ってくる、ニュートラルで品がある、とても希少なフォントだと思います。TP明朝やフィットフォントなど、これまでの既成概念を再定義し、『本来はこうあるべき』を実現する、タイププロジェクトによるドラスティックな挑戦にはいつも驚かされています。現在の日本語Webサイトは、インフラの関係もあり、デバイスフォントで表示される機会が圧倒的に多くなっています。文字も含めた本当の意味でのブランディングには、まだ課題があると感じていますが、プリントからWebサイトまでを統合的にブランディングされることが当たり前になる未来を、1日も早く見てみたいです。タイププロジェクトには、『AXIS Fontの持つモダンな印象』から『暖かさ・手触り・伝統あるトラディショナルな印象』へと多段モーフィングする、フィットフォント的アプローチの新機軸フォントの開発を陰ながら期待しています」