最先端のカスタムタイプ デザインスタジオ
ニューヨークをベースに活躍するフォントデザイナーである Christian Schwartz氏 (クリスチャン・シュワルツ:写真左) に、Commercial Type (コマーシャルタイプ) について、フォントの開発についてお聞きしました。
1. コマーシャルタイプについて教えてください。
コマーシャルタイプは、私とロンドンに拠点を構えるPaul Barnes (ポール・バーンズ :写真右) のジョイント・ベンチャーです。私たちは、ロンドンの日刊紙「The Guardian (ザ・ガーディアン)」用の書体をデザインするためにチームを組んで以来、2004年からずっと共同で仕事をしています。私たちのファンドリーはポールと私、それにスタッフデザイナーであるMiguel Reyes (ミゲル・ライエ) とGreg Gazdowicz (グレッグ・ガドウィッチ)、そしてオランダのアトリエ・カルバーホ・ベルナウのSusana Carvalho (スザーナ・カルバーホ)やKai Bernau (カイ・ベルナウ) という外部協力者、そし元スタッフデザイナーであるBerton Hasebe (バートン・ハセベ) と一緒に開発したフォントを販売しています。テクニカルスペシャリストのMark Record (マーク・レコード) とライセンシングディレクターのMonica Shane Sanchez (モニカ・シェーン・サンチェス) を含めファンドリーのメンバーは6名です。
ファンドリーの運営に加え、主に出版業界向けですがそれに限定せず、世界中のクライアントに向けたカスタムのタイプフェイスをデザインしています。2009年の初めにウェブサイトを立ち上げ、デザイナーのどのような要望にも応えることができる多様性のあるタイプフェイスを提供しています。また、デザイン全体の中で、面白くて記憶に残る役割をタイプフェイスに担わせることをデザイナーがじっくりと考えられるような、表現豊かなタイプフェイスも提供しています。私たちは、このふたつのバランスを保ちながら、小さくとも成長を続けるライブラリーの構築をすすめています。
2. コマーシャルタイプで、人気のあるフォントについて教えてください。
ポールと私がコマーシャルタイプを創業する数年前、私たちはザ・ガーディアン紙のためのガーディアンコレクションというタイプシステムをつくるために、2年間一緒に仕事をしていました。そのリデザインプロジェクトを統率し、タイプフェイスの責任者であるクリエイティブディレクターのMark Porter (マーク・ポーター) は、「印刷物からデジタルメディアへの移行の橋渡しを助けるというユニークな役割を持ちながら、見出しから写真のクレジットにいたるまで、新聞のページに載る文字のすべてを、ひとつのテイラーメイドのタイプフェイスを用いる新聞を見るのは初めてだ」と言っていました。このコレクションは、私たちがその約5年後にコマーシャルタイプを起業した時のライブラリーの基盤でしたが、現在でも私たちの最もポピュラーなタイプフェイスであり続けています。私たちのライブラリーには、GraphikやAtlasのような使用頻度の高いサンセリフフォントから、StagやDruk、Marianのような特別なディスプレイフォントまで多様なスタイルがあります。ポピュラーで使用頻度の高いフォントは、特にウェブに用いられていますが、より表現豊かなディスプレイフォントは、私たちのライブラリーに個性と特別な印象を与えてくれています。
3. 最近新しくリリースしたフォントはありますか?
私たちの最新のリリースはSanomat Sansで、これはフィンランドの日刊紙「Helsingin Sanomat (ヘルシンギン・サノマット/ヘルシンキ新聞)」のためにデザインしたものです。大判サイズの新聞がタブロイドサイズに変更される時に、優雅な趣を保つようにデザインしました。このファミリーは、異なる部署やデザイナーのさまざまなニーズを満たすように、”カメレオンのように” トーンや個性を変えることができるように設計した広範囲のセットになっています。
最近のカスタムプロジェクトとしては、「New York Magazine (ニューヨークマガジン)」の秋ファッション号のためのタイトルフェースや、「Bon Appétit (ボナペティ誌)」のカスタムディスプレイフォント、「Esquire (エスクァイア誌)」の創刊1000 号のためのスペシャルタイプフェイスなどがあります。
左:米国の新しいレストラントップ10に選ばれたボナペティのために、シュワルツ氏がデザインしたGraphik ラウンド ブラック 右:ガドウィッチ氏が、ニューヨークマガジン誌 2015年秋ファッション号のためにデザインした、大文字のみのタイトル用タイプフェイス
4. コマーシャルタイプでは、オリジナルフォントとカスタムフォント開発の割合はどれくらいですか?
プロジェクトの多くはクライアントからの委託であり、国際的なものがほとんどです。私たちはクライアントとの共同作業と、私たちのアイデアとは異なる視点でのチャレンジを楽しんでいます。カスタム開発とは別に、スタッフデザイナーは、週に1日は自分のタイプフェイスプロジェクトに従事することになっていて、ミゲルとグレッグはそれぞれのタイプフェイスを来年リリースする予定です。
5. お客様はどのようにコマーシャルタイプのフォントを使用していますか?
新しいカスタムタイプの注文ではなく、私たちのライブラリーからフォントの使用ライセンスを購入するお客様は、コーポレートデザインから、出版デザイン、書籍デザイン、ディスプレイデザインまでいろいろな方法で私たちのタイプフェイスを利用しています。私たちのライブラリーのウェブでの利用は、他のファンドリーより少し遅くスタートしました。それは、まず高い品質のフォントを作ることを目指したからです。お客様には待った甲斐があった、と感じていただけると思います。
6. コマーシャルタイプのフォントは、どのようなデバイスに搭載されていますか?
私たちのフォントは、iPhoneやAndroid用のアプリケーションから、ケーブルテレビのインターフェース、ATMまであらゆるものに使用されています。タイプフェイスを新聞紙上で読みやすくするための光学的な補正の多くが、ディスプレイにもまた適用されることが分かり興味深く感じています。
7. コマーシャルタイプのフォントを購入できる国はどこですか?
私たちのフォントはウェブサイトを通じて世界中で利用できますが、ラテンアルファベットを用いない国々では限定的な使用となっています。現在、ファミリーのいくつかをキリル文字(ロシア、ブルガリア、ウクライナおよびその近隣諸国向け)と、ギリシャ文字に対応していますが、今後も引き続きライブラリーを拡張させていくつもりです。私たちのタイプフェイスの多くは日本語と非常に良くマッチするのですが、日本はこれまで私たちが強い市場ではありませんでした。タイププロジェクトとの新しいパートナーシップのおかげで、日本市場でも私たちのフォントを紹介できることになり、とても楽しみにしています。
8. 現在進めているプロジェクトと、これから始めたいと思っていることを教えてください。
現在、いくつかのカスタムタイプフェイス開発の初期段階にあります。とても面白いプロジェクトなのですが、残念ながらクライアントとの約束で完成するまではお話することはできません。このインタビューが公開されるころには、私たちの新しいウェブサイトが公開されて、そのうちのひとつを見ていただくことができると思います。それは、ここニューヨークのプロジェクト・プロジェクツの私たちの友人たちによりデザインされたもので、完成まで1年以上かかりました。私たちの新ウェブサイトを公開した後のポールと私の目標は、米国の雑誌「Vanity Fair (ヴァニティフェア誌)」のために開発中のタイプフェイスをリリースすることと、まだリリースできていないタイプフェイスの遅れを取り戻すことです。
9. フォント業界においての御社のポジションと存在意義についてどのように思いますか?
私たちは、最初のそして最先端のカスタムタイプ デザインスタジオです。カスタムデザインは主な収益源とはなっていませんが、私たちが最も力を入れている部分です。ポールと私は、ともに出版デザインの経験があります。その経験は、出版デザイナーが必要としていることを良く理解し、彼らとのコミュニケーションに役立っていると思います。私たちのライブラリーのタイプフェイスのほとんどはクライアントから委託されて開発したものです。そのクライアントの多くが雑誌社や新聞社であることからも、私たちは出版向けのタイプデザイナーとしての評価を得ていると思っています。
私たちの現在および旧スタッフデザイナーは、グラフィックデザイナーとしての教育を受けています。タイプデザイナーになる前にグラフィックデザインに従事していたことが、私たちの仕事に対する考え方に大きな影響を与えていると思います。タイプフェイスを単体として考えるのではなく、それらがどのように使われるか、ということをいつも考えているからです。
10. オープンソースやフリーフォントについてどのように思いますか?
タイプの世界は幅広く、オープンソースやフリーフォントはその重要な部分を占めています。マイクロソフトがMatthew Carter (マシュー・カーター) に委託したGeorgiaフォントとVerdanaフォントが無ければ、ウェブがこれほど快適に読みやすくなるのにも、はるかに長い時間がかかったでしょう。フリーフォントは、自分用のフォントを持たない多くのユーザーに提供されています。グーグル社のNotoプロジェクトによる多くの言語への献身には、本当に敬服しています。
11. フィットフォントサービスについてどう思いますか?
フィットフォントは、本当に素晴らしいシステムだと思っています。日本のデザイナーと、日本でビジネスを展開する欧米のブランド企業の双方にとって、適切な多言語タイプフェイスを見つけることを容易すると期待しています。このサービスにより、日本語と欧文のタイプデザイナーが、それぞれベストを尽くすことに集中することができます。私たちはこの協業に参加できることを非常に嬉しく思います。日本語の明朝体を使用するだけで、欧米企業がその雰囲気を変えることができるということを知ったのは驚きでした。その変更は微細ですが、全体的な印象は著しく違います。フィットフォントは、その可能性を実現してくれるのです。
12. タイププロジェクトについてどう思いますか?
10年以上前にAXIS Fontファミリーを最初に見て以来、タイププロジェクトの独創性と職人的な仕事を称賛していました。私たちはAXIS Fontのような包括的なタイプシステムと、特定の場所を想定した都市フォントプロジェクトを生みだすタイププロジェクトのバランス感覚に、私たちは親近感を持っています。