タイプディレクター 小塚 昌彦氏

「AXIS Font」をどう見るか

タイプディレクターの小塚昌彦氏に、AXIS Fontの印象についてうかがった。

私がモリサワで手がけた「新ゴ」は、日本のモダン・サンセリフというコンセプトでつくったものです。日本語書体でヘルベチカのようなコンセプトのものをつくりたいと考えたんですね。もともとディスプレイ用の書体としてつくったので、本当の意味での読むための書体かというと、少し違います。AXIS Fontもモダン・サンセリフの範疇に入る書体ですが、新ゴに比べると、もう少し読むほうに視点を置いたフォントだろうと思いますね。

これは私の持説なのですが、タイポグラフィの根底にあるものは、原稿の書き手のイデアを読者に伝えることだと思います。特に本文用の書体はそのための媒体に徹するべきで、書体そのものが物を言う必要はありません。明朝でも、ゴシックでも、あまり個性を伝えるべきではないんですね。AXIS Fontもそういう考え方を具現化していると思います。

これは書体に個性がある、ないとは別の話です。本文用の書体は水のようなものだと思うんです。同じ水でも、フランスと日本では味が違うし、日本の国内でも採取される場所によって違う。そういう個性の違いはあるべきだろうし、それがデザイナーの個性というものだろうと思います。ただ、やはり水は水であるべきで、コーヒーやお酒のような嗜好品のディスプレイ用書体と同列に並べることはできません。

新ゴの仮名がヘルベチカのコンセプトに近いとすれば、AXIS Fontの仮名は人間が手で書く軌跡、言い換えればペン書きの流れを素直にスタイル化した書体だと思います。コンピュータをベースにしている文字ですが、素直に書き文字を表現していますね。

私はタイプフェイスというのは、目で見る言葉だというふうに言っています。目で見る言葉であれば、いい言葉が続く限り、その書体は続くだろう、と。簡単に言うと、読みやすくて、親しみやすくて、疲れない。そして読んで、意味が素直に入ってきて、書体を意識しなくて済む。そういう書体が残っていくと思います。長く続く書体には、読みやすさと視覚性、つまり美しさが必要なんです。AXIS Fontも、そういうことを理解してつくられた書体だと思います。

AXIS Fontは、日本には珍しく、一雑誌での使用を前提につくられた書体です。そういう点では、AXIS誌のあり方にぴたりと合っていると読者から捉えられるなら、いい書体と言えるんじゃないでしょうか。
(AXIS誌2001年10月号掲載)

小塚 昌彦
1929年東京生まれ。タイプディレクター、書体設計家。1947年、毎日新聞社に入社。ベントン彫刻機用の原字制作でチーフを務めるなど、活字書体の開発に携わる。1970年以降は毎日新聞CTSデジタルフォントの開発を担当。1984年に退職し、翌1985年にはモリサワのタイプデザインディレクターに就任。リュウミン・新ゴなど、主要書体の開発に携わる。1992年、アドビシステムズにタイポグラフィディレクターに就任し、小塚明朝・小塚ゴシックを制作。2007年、佐藤敬之輔賞を受賞。