株式会社ポーラ ブランディング PJリーダー 有田 賢氏

VIを支え、思いを共有するフォント

ポーラは2002年を新創業の年と位置づけ、ブランドの再構築を行いました。企業理念である「ポーラバリュー」で、お客さまへの提供価値を3つのキーワード―― 個の尊重、最上のホスピタリティ、その先の高品質 ——に集約しました。販売の現場と一体化した価値観は、「ポーラ ザ ビューティー」のような新しい業態の展開へと結実しています。

こうした動きに合わせて、ビジュアル・アイデンティティ(VI)の見直しも実施しました。商品撮影のトーン&マナーやイラストレーションの扱い、レイアウトのルール作りなどデザインルールを統一しました。

当時のブランディングPJリーダーの有田 賢氏は、「VIにおいて書体は重要な要素です。商品企画や宣伝、販売それぞれの部署が、異なるイメージの書体を使っていてはブランドがあやふやになり、お客さまに伝えたいメッセージがきちんと届きません。とはいえ、販売用ツールとブランドの世界観を表現する広告がはたして同じ書体で成立するのかという不安もありました。あらゆる媒体で利用できる、汎用性の高い書体が必要だったのです」と述べています。

2005年、ポーラはあらゆるお客さま向けの情報発信のためにAXIS Fontを導入し、印刷物からウェブサイトにいたるまで、各種媒体に掲載される多種多様な情報の書体が統一されました。

「可読性の高さ、汎用性の高さ、そして導入コストの低さが採用の理由です。可読性に関しては、もともと雑誌用に開発されたものですから言うまでもありません。すっと目になじむので、疲れないのです。現代的で知的な表情と、冷たくなりすぎず親しみやすさを兼ね備えた希少なフォントだと思っています。欧文と和文の表情、ウエイトが完全に揃っている点も嬉しい。文字間や行間を調整すれば見せ方のバリエーションも広がり、さまざまな展開が可能になります。ハイプレステージブランドでも、中価格帯ブランドでも対応できる書体ですね」

さらに、タイププロジェクトは2005年から2011年のコーポレート・スローガン「肌に美しい未来を」の書体も制作しました。AXIS Fontと親和性の高いものという要望に添って提案したのは、宋朝体をベースにした書体です。

宋朝体は明朝体よりもさらに歴史を遡る古い書体です。漢字文化圏の深層に位置する伝統の力を、あえて現代的に再構築する。そこには、歴史的な遺産を基盤にしつつ未来を指向するという思いを組み込んでいます。
「あの書体の凛とした雰囲気が、女性に美しくなってほしいというメッセージをさらに力強いものにしてくれました。はやりでもなく古くもなくありそうでなかった書体が、伝統と革新というポーラがめざす方向性を具現化してくれました。」
(文/大城 譲司)