フォントをブランディングのベースに
トーヨーキッチン&リビング株式会社(以下トーヨーキッチン)は、単なる設備としてキッチンを販売するのではなく、「キッチンに住む」というテーマのもと、人々が集まる暮らしの中心にキッチンを位置づけ、他のメーカーと一線を画する個性的な製品を数多く提案しています。また近年は海外ブランドの照明器具や家具なども積極的に紹介。それらの製品に共通するのは、機能性に加えてインテリアとしてのクオリティの高さです。
現在トーヨーキッチンでは、カタログやDM、ショールーム内のバナーやPOPパネル、ウェブサイトなど、あらゆる制作物でAXIS Fontを使用しています。同社取締役部長でマーケティング部を統括する辻 雅彦氏は、その理由をこう語ります。
「トーヨーキッチンは2004年に書籍『at the Heart of Life』とカタログ『Kitchen is the Heart of Life』を制作しました。AXIS Fontを使ったのは、それが初めてです。外部からの提案も踏まえての判断ですが、私自身がずっと『AXIS』誌の読者で誌面のデザインに親しんでいたこともあり、信頼感がありましたので、即OKしました。」
2003年、ミラノの同社デザイン部門にいた辻氏が、マーケティング部の立ち上げとともにこの部署に加わりました。それまでは制作物のトーン&マナーが不揃いだったこともあり、辻氏は同社のイメージを発信するうえで、ブランディングの軸になるものの必要性を感じていました。
「2004年に完成した書籍やカタログは、過去のカタログと異なりとても垢抜けてすっきりしました。クールだけれど優しい感じです。AXIS Fontは単にグラフィックとして美しいだけではなく、私たちが扱うステンレス製のキッチンとも相性がいいと感じました」
ショールームのバナーやPOPなどでAXIS Fontを使用
こうして辻氏は、AXIS Fontを用いることをブランディングのベースとして考え、フォントの社内導入を決定。全面リニューアルしたウェブサイトを皮切りに、フォントの統一を進めます。現在、カタログやパンフレットは複数のデザイン事務所に発注していますが、このルールが変更されることはありません。
またショールームでもいたるところでAXIS Fontが使われています。キッチンを中心に、ユニークな照明器具や家具、モザイクタイルなどがディスプレイされる店内では、フォントを統一したPOPパネルにトーンを合わせる効果があると辻さんは説明します。アルファベットと日本語が併記されるケースもあり、バイリンガルのレイアウトを前提に開発されたメリットが生かされています。
デザインとして仕上げるために、ステンレスのクールな素材感とAXIS Fontの口調の相性が良い
「ショールームでは、POPだけでなく大きなキャッチコピーもAXIS Fontを使っています。たくさんのウェイトが用意されていて、使うシーンを選ばないのでとても便利です。9月末に青山にオープンした当社の新しいショールーム『LUCE』は、ロゴもこのフォントでデザインしました。コンデンストの書体を、あえて文字間を広くして、さらにスッキリと抜けのあるイメージにしています。ショールームは妹島和世さんの設計で、空間のイメージとも繋がりを持たせました」
トーヨーキッチンは、外部には出さない社内資料や勉強会資料などにもAXIS Fontを使用することを先期からルール化しています。ブランドに対する社員の意識を上げる試みと辻氏は語ります。
「現在の日本の住宅着工数は年間約80万戸を下回り、ピーク時の半分以下。この厳しい環境のなかで、多くのキッチンメーカーが苦戦を強いられています。そのなかで私たちは、11年度も増収増益を達成できました。それは、キッチンを調理用の設備としてでなく、豊かな生活を送るための装置として広めてきたからに違いありません。今後、さらに社員が一致団結して豊かさや付加価値を提案していくために、意思統一には細心の注意を払っていきたいのです。普段から目にするフォントも、そのために効果を発揮し得ると考えています」
辻氏が次にAXIS Fontに期待するのは、明朝体の製品化だといいます。かっちりした招待状などには、やはり明朝体がふさわしく、確かなニーズがあるからです。
「だんだんと気づいてきたのは、フォントは文章を読むお客様にとって話し手の声のようなものだということ。フォントには独特の口調や声量があり、個性があります。AXIS Fontの声はシンプルだけれど柔らかく、品があって質が高い感じがする。その空気感は、トーヨーキッチンの個性と共通するものです」
(文/土田 貴宏 写真/尾崎 芳弘)
トーヨーキッチン&リビング株式会社 マーケティング部 取締役部長 辻雅彦氏とタイププロジェクトの鈴木功。対談終了後にショールームにて。