株式会社 日本デザインセンター チーフデザイナー 有馬 トモユキ氏 株式会社 ワン・トゥー・テン・デザイン ディレクター 瀬島 卓也氏

「新しい王道」を作る書体

2014年7月に放送が開始されたオリジナルTVアニメーション『アルドノア・ゼロ』。そのアートワークを担当しているのが、日本デザインセンターの有馬トモユキ氏です。以前から個人の活動として漫画やアニメーションと関わっていた有馬氏のもとに、企画・製作会社のプロデューサーから打診があった時点では、まだ作品のタイトルさえ決まっていませんでした。そのときにプロデューサーが口にした「ロボットアニメの新しい王道を作りたい」という一言が、意欲的なデザインを創造していく上での出発点となりました。

有馬氏は「王道を目指すクリエイティブに関しては、複数の視点から判断したほうがよい」という考えから、アニメーションに造詣の深い瀬島卓也氏に協力を求めました。両氏を核としたチームが、『アルドノア・ゼロ』のタイトルロゴ、ウェブサイト、広告、パンフレット、本編映像に登場する組織のロゴやディスプレイ画面などのグラフィックス、関連商品のパッケージなど、多様なメディアにおけるデザインを手がけています。

有馬トモユキ氏
日本を代表するデザインプロダクションである日本デザインセンターでは、デジタルの領域の開拓を目指し、2011年にオンスクリーン・デザイン研究所を設立。有馬氏は、この部署でウェブデザインとグラフィックデザインを手がけています。

瀬島卓也氏
瀬島氏は、マドラ出版で『広告批評』の編集を経験した後、京都に本社を置くインタラクティブスタジオであるワン・トゥー・テン・デザインに入社。アニメーションと企業のコラボレーションなどユニークな企画を立案し、成功させています。

あらゆる制作物が、デザインマニュアルを介してつながり、そこではTP明朝、AXIS Fontが使われています。「タイププロジェクトのフォントはウエイトごとに購入できるので、制作現場への導入もスムーズでした」(有馬氏)

『アルドノア・ゼロ』の本編では、見出しやテロップなどにTP明朝が印象的に使われています。有馬氏は「『新しい王道』には、明朝体がふさわしいと考えました。TP明朝は横組みに適した字面を持ち、欧文に通じる鋭さがあって、なおかつウエイトのバリエーションが豊富です。最初に見たときからどこかで使ってみたいと思っていました」と述べています。

「『アルドノア・ゼロ』は、2014年が舞台です。だから、この時代を表現できる書体を求めていて、TP明朝に出会いました。そしてなにより、TP明朝は志村貴子さん(キャラクター原案)の絵とのマッチングが、とても新鮮な印象を与えるので、よい化学反応が起きるのではないかという予感がありました」
(瀬島氏)

デジタルメディアにおける新たなスタンダードを目指して開発されたTP明朝は、コントラスト(縦画と横画の太さの比率)という軸を持ち、メディアの特性にあわせて最適なものを選べる設計となっています。「TP明朝のハイコントラストは非常にシャープで横画が細いので、仮に2年前にこの書体が存在しTVで使おうとしたなら、放送局からストップがかかったかもしれません。しかし今、TVだけでなくネット配信でも高解像度が当然になり、新しい表現が可能になってきました。そのときに、時代とのハーモナイズを実現できる書体が存在しているということがうれしいですね」と有馬氏は言います。

©Olympus Knights/Aniplex・Project AZ

有馬氏らのチームは『アルドノア・ゼロ』のタイトルに、パーツの組み合わせによるデザインバリエーションを与えました。また、各種の制作物に携わる人に向けて、カラーバランスやタイポグラフィなどのルールを詳細に定めたデザインマニュアルを作成。そこでは、明朝体・ゴシック体として、TP明朝とAXIS Fontを用いることが規定されています。「『アルドノア・ゼロ』のクリエイティブでは、ロゴをロゴとして扱っていません。従来はロゴに負わせていたような役割を、いくつかのルールに分散させることで、もっと新しい形のコミュニケーションを設計したいと思っているのです。このようなシステムにおいて、デザインのクオリティとアイデンティティを担保するために重要だったのが、新鮮なタイポグラフィです。加えて、多くの人が関わる制作の現場では、運用が容易なルールでなければ、クリエイティブの質が下がってしまいます。TP明朝とAXIS Fontは、特別な組み方をしなくてもきちんと美しく見えるという点でも、必然的な選択でした」(有馬氏)

「新しい王道とは、あとに続く人が出てくるということだと思っています。そういう意味では、僕らのデザインが真似されるのは歓迎ですし、たくさんの人に追いかけてもらえることを願っています」(瀬島氏)

(写真/千房 輝)