株式会社TBS ビジョン ディレクター 大矢 慎吾氏

世界遺産と共存する明朝体

TBS テレビで毎週日曜午後6 時から放送されている「世界遺産」。「過去から引き継がれてきた地球や人類の歴史を未来へ繋げていこう」という世界遺産の精神に寄り添いつつ歩んできたこの番組は、2015 年4 月、放送開始から20 年目を迎えるにあたってリニューアルを行い、テロップの書体として新たにTP 明朝を採用しました。

「明朝体はそもそもきれいな書体だと僕は思っているのですが、画面では横画が見えにくい場合があって、使いどころが限られていました。最初にTP 明朝では横画の太さを選べると聞いたとき、『あ、それはいいな』と思いました」

TP 明朝を選んだ経緯について、「世界遺産」の制作を担当している株式会社TBS ビジョンのディレクター、大矢慎吾氏は次のように語っています。「まず、世界遺産、すなわち世界のさまざまな自然や文化を語る文字としては、普遍性につながる書体である明朝体がいいのではないかという思いがありました。また、映像が主役の番組ですから、文字には自己主張が強すぎない、なるべく透明な印象のフォントが望ましい。そして何より、映像に文字を重ねたときの読みやすさが重要でした。番組のリニューアルに際して『こういうイメージのフォントがいいなあ』というような話をしていたとき、CG デザイナーから提案されたのがTP 明朝です。『なるほどこれはきれいだな』というのが第一印象でした」

TP 明朝は、デジタル環境での読みやすさを追求し、横組みに最適化した書体設計をおこなった明朝体です。ウエイトに加えてコントラスト(横画と縦画の太さの比率)という軸を導入することで、幅広いシーンにおいて環境に応じた選択を可能としました。また、TP 明朝の現代的な筆画表現と文字骨格は、斜体などの変形をかけた使い方にも適しています。

「番組にテロップを入れる場合、フォントはVTR を編集する段階で選ぶことが多いのですが、『世界遺産』では番組内での統一感を大切に考えて、ひとつのフォントをメインで使うという方針を貫いています。ですから、リニューアルの際のフォント選びは慎重におこないました。最終的には4 つか5 つの候補に絞って、これまでに放送した映像に文字を入れてみて比較検討した上で決定しました」

「世界遺産」では、テロップの文字はあまり大きくはありません。そのような使い方において横画が飛ばずに読みやすいこと、和文と英文のバランスがいいこと、細かい調整なしできれいに使えることなどから、大矢氏はTP 明朝のミドルコントラストを選びました。「最終的にTP明朝を提案したところ、プロデューサーもこのフォントを知っていて、『あれならいいね』と、スムーズに導入が決まりました。世界遺産という番組のイメージについては、スタッフのなかで共通のものができあがっていたのだと思います」

世界遺産を美しい映像のアーカイブとして後世に残していくというコンセプトの番組『世界遺産』は、放送900回を超えました。TP明朝はテロップの書体として、シンプルな処理で使われています。

「世界遺産のおもしろさを、なるべく加工することなく届けたい。だから、文字の処理も最低限にしていて、そのぶんごまかしが利きません。たとえばどんな書体でも、何重にもエッジをつけるなどの処理をおこなえば、それなりに読みやすくなったりはするのですが、そうではなく、フォントのデザインのままできれいに見えてほしいし、TP 明朝はこの要求に応えてくれました。30 分という長さの番組のなかで、ちいさなお子様からご高齢の方まで、いろいろな人に世界遺産の魅力を味わってもらい、「そこに行ってみたい」と思ってもらえればうれしいですね。