両見英世「mass×mass cafe」(2016年3月4日)でのトークから

人と横浜と濱明朝と僕と

こんばんは、両見です。皆さまお忙しいところお越しいただきまして、ありがとうございます。わたしは文字のデザインを仕事としてやっていまして、いまは、この会場の2階にある「TENTO」というシェアオフィスで字を作っています。また、仕事場としては練馬区に会社(タイププロジェクト)がありまして、そこでも作業を進めています。わたしがタイププロジェクトという会社に入って最初に作ったのは、ひらがなやカタカナや漢字ではなくて、携帯電話のための絵文字でした。その後、TP明朝という書体の開発に携わり、主に漢字を担当しました。それから、AXIS FontのProN版、文字の種類を拡張する仕事を手がけ、これは一昨年にリリースされました。現在取り組んでいるのは、濱明朝という書体です。ご覧のように、縦画が太くて横画が細い明朝体です。この書体を作るにあたっては、横浜の港というモチーフを大切にしています。山下公園の前に係留されている氷川丸のシルエットを横画に見立てたり、いま画面に出ているのは、みなとみらいの街並を海側から眺めている写真なんですけど、どっしりとしたビルが建っていて、天気がいいと富士山が見えるというような、そういうイメージで、明朝体を開発しています。

まちを知る方法はいろいろあると思うのですが、イギリスのブリストルという都市のプロジェクトを主導した人が「まちのプロジェクトを行うたびに、そのまちに自分の事務所を設置する」というようなことを言っています。それを読んで、横浜のシェアオフィスを借りて拠点とすることにしました。そこから、お隣さんとの醬油の貸し借りじゃないですけど、職能の貸し借りというか、さまざまな面白いコラボレーションが生まれました。

濱明朝の開発は、極太の明朝体からスタートしました。ただ、これだけだと、どうしても見出しとか、用途が限られてしまいます。できればいろんな人に、いろんなシーンで使って欲しいなという気持ちがふつふつとわいてきましたので、バリエーション展開を図りました。

ご覧の図では、縦が通常の文字の太さの軸、横が「文字を使う大きさ」のための軸です。濱明朝は横画と縦画のコントラストが特徴なので、小さく使うための文字では、かすれてしまわないように、横画を太くしています。小さく使う「Caption」と大きく使う「Headline」を比べると、横画の太さがかなり違うのがおわかりいただけると思います。それでも、「Caption」を小さく使ったとき、横画の細い明朝体だという濱明朝の特徴は変わっていません。

人間の目って、精緻な部分もある一方で、すごくいいかげんな部分もあって、文字のサイズが変わっても同じような印象に見えるよう調整をしていくという作業が必要なんですけど、これをひたすらやりました。

開発を進めるなかで、現在、ひらがな、カタカナ、アルファベットができてきまして、漢字は1200文字くらいできました。それで、ちょっとした文章が組めるようになって、この場もそうですけれど、いろんなところで皆さんに見ていただけるようになりました。


濱明朝の組見本

現在、濱明朝は、クラウドファンディングに挑戦しています。文字というのは、グラフィックデザインはもちろん、ファッション、プロダクト、建築など、いろんな分野に水のようにしみ込んでいくことができる存在で、そういう意味では、人がいれば、その人はフォントとの関わりを持っていると言っていいんじゃないかと思います。人と一緒に何かができたらいいなという思いから、クラウドファンディングという方法を選びました。