文字の背景が澄んでいる
50年以上の歴史を持ち、時代を代表するクリエイターを輩出してきた日本デザインセンターで「色部デザイン研究室」を主宰するアートディレクター、色部義昭氏。SDA賞、JAGDA賞、東京ADC賞、D&AD賞、One Show Design賞など数々のデザイン賞を受賞し、東京藝術大学の非常勤講師も務める色部氏は、「いちはらアート×ミックス」や「勝どきビュータワー」のサインデザイン、「リキテックスアートプライズ」のグラフィックデザインなど、さまざまなプロジェクトでAXIS Fontを採用しています。
「最初にAXIS Fontと出会ったときの印象は鮮烈でした。文字が並んでいる、その背景が澄んで見えたのです。このような清々しさは、今までの日本語フォントにはないものでした。多くのゴシック体には、インクのたまりを意識した要素など、金属活字の延長線上にある部分が見られるのですが、AXIS Fontには、それとは違う、新しい文字の成り立ちを感じました」
「ときには壁紙を選ぶように、ひとつのテクスチャーとして文字を選ぶこともあれば、じっくり読ませるための文字を選ぶこともあります。文字と背景のマッチングのなかで、ひとつの世界を醸成していくことがポイントだと思っています」
色部氏の作品では、長体のAXIS Fontコンデンス、コンプレスが印象的に使われています。AXIS Fontコンデンス、コンプレスは、漢字と仮名で文字の幅を変えて(コンデンスの場合、正体の100に対して、漢字の幅は80、仮名の幅は76)黒みの差を減らすことで、組んだときに両者がバランスよく混在できる設計となっています。「日本語では、漢字、カタカナ、ひらがななど、文字の種類が多様なので、欧文のようになめらかな諧調を出すことが、なかなかできません。逆に言えば、そのような事情を飲み込んだ上でデザインを考えていくという原則があるのですが、AXIS Fontコンデンスで組んでみると、日本語の文字であるにもかかわらず、流れるような諧調が実現できることに驚きました」
色部氏がアートディレクションを手掛けた「いちはらアート×ミックス」は、千葉県市原市内を走る小湊鐵道の駅舎や車両、そして、閉校となった4つの小学校の敷地・施設を活用した芸術祭です。色部氏は、小湊鐵道を象徴する車体の赤い帯をもとに芸術祭のロゴをデザインし、ロゴと連動した赤い帯にさまざまな情報をのせていくシステムを立案。この赤い帯で日本語のメッセージを伝えるためのフォントとして、AXIS Fontコンプレスを選びました。「ロゴのアルファベットは、鉄道のプレートの丸い文字をイメージしたものです。これにあわせて、仮名や漢字はAXIS Fontコンプレスをラウンド風に加工しました。AXIS Fontコンプレスは、他にはない個性を持ちながら視認性がよく、また、開催エリアである中房総の健康的な風景とマッチしました。地域を会場とした芸術祭をコントロールするためには、膨大な情報量が必要となりますが、文字の個性と赤い帯という記号との組み合わせによって、必要な情報を効果的に伝達することができました」 「いちはらアート×ミックス」のサインデザインは、「SDA賞(サインディスプレイアワード)優秀賞」を受賞しています。
「この赤い帯は、その土地にある色を使ったシンボルであり、膨大な情報をのせるメディアであり、なおかつ、芸術祭の会場をつないでいくラインでもあります」
地上52階建ての分譲タワーマンション「勝どきビュータワー」のサインシステムでは、そびえ立つタワーをモチーフとしたマークにあわせて、一文字一文字を高さのあるものにしていこうというアイデアから、AXIS Fontコンプレスが採用されました。「ロゴマークだけで何かを特徴付けるのは容易ではありません。そこで、文字の役割が重要となります。たとえばサインであれば、文字によって多種多様な情報がいたるところに埋め込まれ、人がそれをなかば無意識に共有するという状況ができる。そういう意味で、ブランディングのために文字を利用するのは、非常に効率的なアプローチだと思います」
「建築を味わうにはリテラシーが必要となるので、サインシステムには、建築の価値を伝えるためのとっかかりという役割もあります」
公募展「リキテックスアートプライズ」のグラフィックデザインでは、AXIS Fontコンデンスがゆったりしたレタースペースで組まれています。「このイベントは若い人をターゲットとしたものなので、端正なデザインというよりは、完成されすぎない、ざっくりとした雰囲気を演出しています。文字をテクスチャーとして見て、太い糸で縫っていくような質感を出したいと考えました。AXIS Fontは骨格として信頼できるので、その点を活かしながら、角を丸く加工することで、あえて少しだけ崩して粗い味を加味しています」
「リキテックスアートプライズ」は、次世代のアーティストを生み出すことを目的とした、オープンなアートフェア。色部氏は、2012年からそのグラフィックデザインを手掛けるとともに、審査員を務めています。
(写真/五十嵐 絢也)