空間のなかで生きる文字
2015年3月、南池袋に誕生した超高層ビル「としまエコミューゼタウン」は、区役所と超高層マンションを一体化させた日本初のプロジェクトです。この施設内のいたるところで目にすることができ、人を導く役割を果たしているのが、さまざまな素材を用いたサインパネル。そこにはAXIS Fontが使われています。
「としまエコミューゼタウン」のサイン計画を手がけたテラダデザイン一級建築士事務所・主幹の寺田尚樹氏は、グッドデザイン賞審査員、武蔵野美術大学非常勤講師も務め、建築設計のみならず、アイスクリームスプーン「15.0%」をはじめとするプロダクトデザイン、紙で作る1/100スケールの模型の世界「テラダモケイ」など、幅広い分野を活動の場としています。
オフィスに併設されたテラダモケイのショップで。「ブランディングにおける僕の立場は、デザイナー兼ブランドディレクターで、目指しているのは『ないマーケットを作る』ということです。『テラダモケイ』も、アイスクリームスプーンの『15.0%』も、それまでは存在しなかった市場をデザインの力で作ったという自負があります」
「僕はロンドンのAAスクール(Architectural Association School of Architecture)という建築学校で学びました。日本では建築家は建物を考える人というイメージですが、ヨーロッパでは立体物を設計する人全般がアーキテクトと呼ばれます。建築家なら、いろんなものを作り出すことができる。そういう人になりたくて、海外の学校を選んだのです。ですから現在の仕事でも、建築だけでなく、空間に関わるプロダクトのデザインが大きなウエイトを占めています。そして僕にとってサインデザインは、そのようなインテリアプロダクトの延長線上にあります。たとえば壁掛け時計をデザインするときには、それが置かれる場所の天井の高さなど、各種の空間的要素をしっかりとイメージすることが重要となりますが、サインも同様です。建築、インテリアプロダクト、サインは、すべてつながっているのです」(寺田氏)
「としまエコミューゼタウン」プロジェクトでは、設計を日本設計が、外観のデザイン監修を隈研吾建築都市設計事務所が担当。建物の外装は、エコヴェールと呼ばれる植栽パネルや太陽光パネルなどで覆われたデザインです。日本設計からサイン計画を一任された寺田氏らは、エコヴェールと同じ縦横比のサインパネルを採用し、パネルの素材を区役所=木目、店舗=ガラス、共用部=ステンレス、集合住宅=ブラックステンレスとするサインシステムを立案しました。
「依頼を受けたときに『サイン計画は建築家に頼みたかった』と言われたのがうれしかったですね。その期待にどう応えようかと考えて、サインを建築の仕上げ素材の一部であるようにデザインするというアイデアに行き着きました。このシステムでは、ステンレス、木目、ガラスなどの素材のサインパネルが床や壁などに配置され、そこに文字が刻まれることとなりますが、クセのある書体だと背景の素材によって印象が変わってしまいます。そこで、多様な素材に対して常にニュートラルな関係性を保てる書体という観点から、AXIS Fontを選びました。そしてもうひとつ、同じ看板のなかで要素の重み付けを変えたい場合、複数のウエイトを混在させても統一感が損なわれないという点でも、AXIS Fontが最適でした。
作品だけでなく、プレゼン資料などにもAXIS Fontを利用しているという寺田氏は、とくに細いウエイトと太いウエイトの組み合わせがお気に入りだそうです。「AXIS Fontは凝った調整をしなくてもきれいに組める、僕にとってはデフォルトのフォントです。細めのものをメインで使って太いものをアクセントにする、そういう見せ方がとても効果的です。また、TP明朝は他の明朝体にはない現代的な感覚が魅力なので、これまで無意識にゴシックを選んでいたようなシーンで使ってみたいですね」
テラダデザインが手がけた「みなみ歯科・矯正歯科」のインテリアデザイン、サイン、グラフィックデザインでは、美しい歯をイメージしてデザイン されたシンプルなシンボル「M」との相性がよく、清潔感があるという理由で、AXIS Fontが採用されました。このプロジェクトは、「DSA日本空間デザイン賞2015」に入選しています。
(写真 大森有起)