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Typography Book Fair 2025 トークセッション「タイポグラフィ・トゥモロー」鈴木功×山田和寛×神村誠
Typography Book Fair 2025 トークセッション
「タイポグラフィ・トゥモロー」
鈴木功×山田和寛×神村誠

2025年12月12日(金)から12月14日(日)の3日間、タイポグラフィにまつわる書籍が集うイベント Typography Book Fair 2025 が Detail Research Center で開催されました。トークセッション「タイポグラフィ・トゥモロー」第1弾では写真左から、神村誠氏(Kamimura & Co.)、山田和寛氏(株式会社nipponia)と共に、タイププロジェクトの鈴木功が登壇。
書体制作に関わる三者が、デザインキャリアの出発点から、フォント制作とタイポグラフィ教育について語りました。
鈴木:タイプデザイナーとして駆け出しの頃に担当したのが、7,000字ほどの漢字を分類する作業でした。辞書的な並びとは異なる、「タイプデザインをする上で、精度が高い文字を短時間でつくるため」の並び替えです。普通は苦になるような作業でしょうが、僕はもともと漢字から文字の面白さに目覚めたこともあって、嬉々としてやっていましたね。興味深いのは「漢字がどう成立していったか」という起源と「タイプデザインのための分類」は、かなり近いということです。
神村:鈴木さんは最初に漢字から入っているんですね。おふたりの仮名への興味はいかがでしたか?
鈴木:仮名への目覚めは遅くて……必要に迫られてから、徹底的に色々なものを見て勉強しました。
山田:僕は学生時代から金属活字をトレースしていましたし、当時就職したデザイン事務所の本業とは別に、ずっと書体設計を続けていましたが、本格的に仮名と向き合ったのは鳥海修さんの「文字塾」1期生として通い始めてからです。
神村:鈴木さんと比べると、山田さんは仮名の印象が強いです。仮名フォントをリリースされていますし、山田さんのお仕事を見ていると書体にも装丁にも同じエッセンスを感じます。ご自身で制作した書体を使い、装丁まで担当されることもありますよね。
山田:使いたくて作った書体なので、ハマる場合にはそれを使っています。ただ、リリースしているのは「仮名書体」なので、他社の漢字と組む必要もあり、作品に合わせてデザインしていると、自社書体ばかりにはなりません。
神村:鈴木さんは、ご自身の書体が使われているものを見ると、たとえば「AXIS」誌を手に取ったときに、その誌面全体のデザインまで手がけてみたいと思うことはありませんか? そこはどう切り分けて考えているのでしょうか。
鈴木:やってみたいとは思いますよ。本のデザインもそうだし、欧文書体のデザインも。実際、欧文書体のデザインにも何度か挑戦しようとしたこともあります。でも僕は「和文書体を作る」とはっきり境界線を引くようになりました。僕より速く上手くできる人がいるのであれば、その人に任せるのが最善。周りと協力しながら進めていく。それが、タイププロジェクトが今も生き残っている理由のひとつかもしれません。
神村:僕は愛知県出身なのですが、名古屋には鈴木さんや、白井敬尚さん、味岡伸太郎さんなど、タイポグラフィにまつわる人が多くいました。その環境もあって、デザインに興味を持った頃から、文字を作ることはある意味「普通のこと」でした。現在は、企業のビジュアルアイデンティティなどの仕事を通じて、欧文のデザインを手がけています。最近は、自分の書体が他の人に使われ、広まっていくのを見ることができて、本当に嬉しいです。書体に込めた考えが、説明しなくてもデザイン側に反映されていると感じます。書体を変えるだけでブランドの方向性を決定できますよね。広告だけでイメージを作ろうとするより、効率的ではないかと思うんです。「いいお米を食べると、いい体になる」といった感じでしょうか。ベースとなる書体がそのブランドの“体質”を形作っている部分があると思います。

共に大学で教鞭を執る鈴木と山田氏。タイポグラフィ・タイプデザイン教育についても話題が広がるなか、山田氏はふたつの美大での対照的な授業を紹介しました。
山田:多摩美術大学では、名刺制作などの具体的なアウトプットを課題としています。一方で女子美術大学ではもっと実験的にやっていて、最近は文字そのものを作らなくなりました。カレンダーの課題でも、数字をデザインするのではなく「数値や量という概念を形にする」という内容に変えたんです。概念に形を与えることがデザインの本質だと考えているので、タイポグラフィを一歩手前の抽象的なところまで引き戻して取り組んでいます。具体と抽象、その両極端な取り組みを同時に見るのは、面白いですね。
神村:最近はデザイナーよりもクライアント側に、文字・書体への高い感度を持つ人が多いと感じています。スマホでもどこでも、文字を見る機会が増え、結果、文字を意識する人もすごく増えている。文字の作り手として、綺麗にしていかないといけないという責任を感じています。
鈴木:たしかに今は「完成されたフォント」として文字をみることが当たり前ですよね。当たり前になりすぎて、「文字とは何か」という本質的な問いが希薄になっていないか?という危機感もあります。なので僕は、授業で毎週「手書きレポート」を学生に課しています。身体を通して文字を綴ることで、デジタルフォント以前にある文字の本質に向き合ってもらおうと考えています。

神村:もっとみんな文字を作ったらいいと思うんです。タイプデザインって、少し触れるだけでもいいのに、今はハードルが高すぎると感じています。
鈴木:それは同感です。大学でも、文字を「素材」として触れてもらうことを大事にしています。例えるなら、美味しい料理(デザイン)を調理するときに、スーパーで並んだ野菜(文字)を使うだけでなく、野菜から自分で育てて料理を作ってみる感覚ですね。自分で文字から作ってみると、文字のクセや特性が分かるし、本当に真剣に文字を扱うようになる。書体デザイナーになってもらうためではなく、文字を使う人としての理解を深めるために、課題を出しています。
神村:確かに、自分で作ったものは何でも大事にしますよね。作ったものを持ち寄って話すことで、議論も深まると思います。
山田:全部を作る必要はありません。使いたい文字だけ、その場で作る。そのくらいの気分で、ぜひみなさんにも文字作りに取り組んでほしいですね。
ほかにも、タイプデザインは本質的に人に教えにくい分野ではないかという問いかけ、歴史的・文化的背景をふまえて制作することの大切さ、時代に合わせてデザインをリファインしていくことの難しさなど、話題は多岐にわたり、あらためてこの分野の奥行きを感じさせる時間となりました。