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ユーザー同士のコミュニケーションを支える書体
株式会社スクウェア・エニックス
プロデューサー 吉田 直樹氏
リードUI 皆川 裕史氏
ファイナルファンタジーシリーズは長年にわたり日本のコンピュータRPG文化を牽引しています。1987年の第1作から、メインとなるナンバリングタイトルをはじめ40本以上の作品が発売され、全タイトルの累計出荷本数は1億本以上に達しています。
2013年に、最新作「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア(新生FFXIV)」がリリース予定です。これはファイナルファンタジーXIに続く待望のMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)で、インターネットを通じて不特定多数のユーザーがオンライン上でコミュニケーションを交わすというものです。そのコミュニケーションツールとしてAXIS Fontが採用されました。


250名を超える開発部隊を率いて新生FFXIVを統括するプロデューサー/ディレクターの吉田直樹氏は、これまでドラゴンクエストシリーズの制作に関わり、ゲームデザインやプランニングを担当してきました。そしてファイナルファンタジーXIIでディレクターを務めると同時にビジュアルデザインとキャラクターモデルに携わった皆川裕史氏が、UI専任としてタッグを組んでいます。

「AXIS Fontを採用した理由はいくつかあるのですが、もっとも重要なのは読みやすさです。ゲーム画面の中でもニュートラルで読みやすい。MMORPGの場合、ユーザー同士のチャットを含めテキスト量が膨大なものになります。そして、プレイヤー同士のコミュニケーションが主軸となり、数年以上にわたってゲームが運営されることになります。つまり、ユーザーの方々は非常に長時間にわたりプレイすることになる。読みやすさと同時に、画面に向きあう時間が長くても疲れないことが必須です」と吉田氏は語ります。
UIを担当する皆川氏は、「剣と魔法が登場するファンタジックな世界観のゲームでは、明朝体や古印体のように歴史を感じさせる書体をよく使います。ただし、こうした書体は長時間プレイを前提としたMMORPGのようなジャンルには不向きと考えました。MMORPGで明朝体や古印体を標準書体とした場合、ゲームの世界観にはマッチしたとしても、書体の主張が強く、ディスプレイで長い時間見ていると『うるさい』印象が強くなります。その点、AXIS FontはFFXIVの舞台であるエオルゼアの世界に空気のようになじんでいる。こうしたニュートラルで、癖のない書体が求められたのです。そしてなにより、”新生”の象徴としてデザインにもこだわっていることを示すためにAXIS Fontを選びました」と言っています。


吉田氏はMMORPGの世界にエンディングは存在しないと言います。2012年で10年目を迎えたファイナルファンタジーXIはいまでもユーザーにプレイされ続けています。今回リリースされる新生FFXIVでも、それだけ長期の時間軸が想定されていることになります。 「今後、PCやデバイスが進化してモニターの解像度がどんどん高くなっていくと、AXIS Fontの実力がさらに体感できると思います。現段階でも小さな文字が潰れずに読めるわけですからね」(吉田氏)
AXIS Fontが採用されたもう1つの理由は多言語に対応していることです。ファイナルファンタジーシリーズは海外のファンも多く、北米や欧州などグローバルな広がりを見せています。 「FFXIVのプレイヤーはチャットでコミュニケーションする際に、それぞれの母国語で入力するわけですから、日本語はもちろん英語やドイツ語、フランス語のテキストが同じサーバ上で行き交うことになります。チャットのウィンドウは多言語が混在しても不自然にならない書体が必要でした。『新生FFXIVでは絶対にAXIS Fontを使いたい』と熱弁をふるいました」(皆川氏)


「AXIS Fontを組み込んでみると、これだけグラフィカルで、しかも多くのパラメータが表示されるにもかかわらず空気のように違和感なく画面にしっくりなじんでいる。プレーンでベーシック、でも引きずられない。『これしかない』という感じでした」(吉田氏)


UIを含めフォントに強いこだわりがある皆川氏は、10年ほど前にタイトルごとにビットマップフォントを作成した経験を持っています。「現段階では単なる夢想に過ぎませんが……。コーポレートフォントのようにゲーム専用フォントがあってもいいと思います。自分でつくってみたいという野望もあるのですが、日本語は文字量が膨大なのでタイトル専用のアウトラインフォントをつくるのは現実的に難しい。いつかタイププロジェクトさんに協力いただいて、チャレンジしてみたいですね」
AXIS Fontは今後、新生FFXIVのマニュアルやパンフレット、世界観を伝えるための小冊子でも使われる予定です。

(写真/五十嵐 絢也)
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