建築家 川西 康之氏

駅という「公共空間」で機能する書体

デンマーク王立芸術アカデミー都市デザイン科招待生として渡欧後、オランダDRFTWD officeやフランス国鉄交通拠点整備研究所(AREP-SNCF)都市設計部などで活躍した建築家の川西康之氏が、2004年に手がけたのは肥薩おれんじ鉄道(八代駅〜川内駅)のロゴタイプとサイン計画でした。


JR鹿児島本線の一部であった熊本県八代と鹿児島県川内を結ぶ路線が第三セクター方式で再出発することになりました。肥薩おれんじ鉄道というみずみずしい名称には、旧国名の「肥後」と「薩摩」の頭文字に加え、沿線で栽培されている柑橘類のイメージが盛り込まれています。川西氏は、精度の高い文字と路線にふさわしいデザインを導入することで、駅という空間や鉄道で移動するという体験に新しい視点を盛り込みたいという思いからロゴタイプだけでなく、統一的なサイン計画を提案しました。

そのために川西氏が選んだのはAXIS Fontでした。風光明媚な自然に囲まれた空間であり、かつミニマムな要素のみで構成された駅舎にはシンプルであたたかみのある書体がふさわしいと直感したのだそうです。

「利用者のためにできることを考えたときに凛として白に映えるAXIS Fontしか考えませんでした。書体としての完成度だけでなく、日本語と英語を併記した時のバランスの良さは抜群ですね。駅名を漢字・ひらがな・アルファベットで同じスペースに配置しても違和感が無い。私は建築家であり、グラフィックデザインを専門的に学んできたわけではないにもかかわらず、完成度の高い文字組を実現できたのはAXIS Fontのおかげだと思っています」

肥薩おれんじ鉄道の各駅に設置されている駅名看板のデザイン。

川西氏は土佐くろしお鉄道の主要駅のひとつである中村駅のリノベーションも手がけました。こちらも第三セクター方式を導入し1988年に誕生した路線です。当初はJR中村線を引き継ぐかたちで運行していましたが宿毛線やごめん・なはり線も加わり、現在では高知県の基幹をなす公共交通機関として地域住民や観光客に親しまれています。

土佐くろしお鉄道 中村駅の新しい駅舎。その設計は高く評価され、受賞は10件におよぶ。

2010年、川西氏が設計した中村駅の新しい駅舎が完成しました。鉄道会社の立場から駅舎の動線を整理して効率的に動ける空間を目指し、また利用者の立場から単なる乗り場ではなく公共空間として機能させることが考慮されています。公共空間としての駅舎には地元の四万十檜をふんだんに使った勉強や読書ができる場所が設けられ、照明を効果的に配置して女性やお年寄りがリラックスできるスペースになっています。その設計は高く評価され、グッドデザイン特別賞 中小企業庁長官賞や日本鉄道賞特別表彰 地方鉄道駅舎リノベーション賞など、受賞歴は10件におよびます。

AXIS Fontoを使用した中村駅構内の時刻表。

駅舎ではさまざまな情報が交錯しています。その中でもっとも大切なのは路線図や時刻表、料金表などの鉄道の運行に関わるデータです。川西氏は優先順位の高さを示すために、目線の上に路線図や時刻表を設置し、目線の下には地元企業の広告や行政のお知らせなどを掲示するというルールを設定しました。

「時刻表や料金表でもAXIS Fontを使用して、肥薩おれんじ鉄道のとき以上にAXIS Fontの潜在力を実感しました。特に時刻表の場合、限られたレイアウトスペースで数字をしっかり読ませなきゃいけない。AXIS Fontの場合、厳しい条件下であっても視認性と可読性が高いのです。中村駅では試験的にデジタルサイネージを導入していますが、デジタルデバイスでの使用もまったく問題ありません」

鉄道の根幹を成すのは路線図と時刻表です。運行本数に比例して、AXIS Fontのような書体の重要度も増していくのではないかと川西さんは考えています。CondensedやCompressedのような独自の長体、あるいはAXIS Latin Proに含まれるイタリックなど、豊富なバリエーションを組み合わせることによって、さまざまな見せ方が可能になるからです。

「都市部で顕著ですが、英語のみならず簡体字やハングルを併記する例が急増しています。今後はアジアを見すえた多言語対応の書体が必要になるのかもしれません。今後の開発にも期待しています」

(文/大城 譲司 写真・デザイン/川西 康之)

建築家 川西 康之
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