【メディア掲載】マイナビ出版「+DESIGNING」

価値を変え、環境を整え、文化を支え、生活に根ざす。
タイププロジェクトが目指す、文字の姿。

デザイン誌『AXIS』の専用フォント作成からウエイトとコントラストを自由に組み合せることができるフィットフォント、都市フォントプロジェクトやフォント試作ツールの提供など、独自の展開を続ける、タイププロジェクトの目指すものとは。

もの、ひとの価値を高める文字(2)

なぜAXIS Fontはコーポレートフォントにもなり得るのか

AXIS Fontが世に出た2001年当時、媒体専用フォントということも相まって、ほかのフォントにはない、ユニークな存在感があった。それまでに存在した、どの書体に近いとも言い切れず、どの書体の系統にも分類できなかった。その理由は、鈴木氏のタイプデザインに対する考えかたに現われている。「今でもそうなんですけれど、まずはナチュラルに、自分が今生きて見ているもの、吸っている空気、感じている時代の息吹みたいなものを、書体に反映できればいいと思っています。AXIS Fontも自分のなかで、違和感なく気持ちや目になじむことが大切でした。“現在”というものを表現でき、さらにそれが5年後、10年後の環境や視覚的な空気感につながってくれれば……新しい書体を作るときにはいつも、そういう希望を込めています」

AXIS Fontには、鈴木氏が当時、感じていた時代の空気が描き出されていたのだ。また、AXIS Fontがコーポレートフォントとしても多く採用されているのも興味深い。媒体の専用フォントを使うと、どのような媒体であれ、『AXIS』誌のようになってしまうのではないか。しかし、実例を見ると、AXIS Fontはそれぞれの場所に驚くほど素直になじんでいる。透明感やニュートラルさを備え、5年先、10年先を見据える鈴木氏の書体設計の思想が、長く使われることを前提にしたコーポレートフォントの考えかたに合致したのだろう。その理由を鈴木氏はこう分析する。「書体の性格であるニュートラルさに加えて、コーポレートフォントにサンセリフフォントが採用されている会社が圧倒的に多かったこと、AXIS Fontが当時としては多い7ウエイトあったこと。そしてコンデンスやコンプレスを含め、3つの字幅があったため、欧文に合わせる和文の選択肢として、AXIS Fontが選ばれたのではないでしょうか」

コーポレートフォントとしてのAXIS Font

AXIS Font(またはそれをベースとしたカスタムフォント)は、多くの企業でコーポレートフォントとして採用されている。ニュートラルなデザイン、調和のとれた和文と欧文、コンデンスやコンプレスがあることによるデザインのしやすさなど、その採用理由はさまざまだが、こうした事例は、AXIS Font が高度なデザイン性を持ちつつも、一種の匿名性を備えた希有な存在であることを証明している

左上:カンペール
左下:スターバックス
右上:ポーラ
右下:トーヨーキッチンスタイル




AXIS Fontから生まれたフィットフォント

存在感があって存在感がない。独特の理由で採用されることも多いというAXIS Fontだが、コーポレートフォントとして使われる際にはカスタマイズの要望も多いという。「やはりコーポレートフォントとなると、“AXIS Fontがいいんだけれど、他社とはちょっと変えたい”という要望が多く、当初は個別に対応していました。こうした要望はこれから増えていくだろうということで、サービスとして提供することになったのがフィットフォントです」

タイププロジェクトのフィットフォントは、AXIS FontやTP 明朝(21ページ参照)のウエイトやコントラストを調整し、それぞれ1071種類のバリエーションを提供するもの。モノタイプ社およびコマーシャルタイプ社の欧文フォントと組み合せて提供することで、コーポレートフォントの多様な要望に応えることができる。これはタイプデザイナーとタイプエンジニアが密接に仕事を進めることのできるタイププロジェクトという会社ならではといえる。「弊社はデザイナーとエンジニアの話し合いもすごく多いんですよね。デザイナーがわかっていないといけないし、デザイナー側の要望をエンジニアもわかっていないといけませんから」

字幅、ウエイト自由自在。AXIS Fontのフィットフォント

AXIS Fontはウエイトと字幅のバリエーションをあわせると、18ものラインナップになるが、コーポレートフォントではさらに細かい太さや字幅を求められることもある。そうしたニーズに対応するために、エンジニアとともに開発したのが、太さを51段階、字幅を21段階に変化させることができる「フィットフォント」だ。

左:「ブブキ・ブランキ」のために作られた、AXISフィットフォントにジオメトリックな欧文フォントを組み合わせたフォントセット。こうしたコンビネーションは、鈴木氏にとっても大きな衝撃であり、可能性に気付くきっかけにもなった

右:タイププロジェクトのオンラインショップから、「フィットフォント」の項目にアクセスすると、ウエイトと字幅(AXIS Font)、コントラスト(TP 明朝)を変えるシミュレーションを行なうことができ、指定した設定のフォントをそのまま購入することができる。サンプルテキストは任意に変更することが可能

フィットフォント


フィットフォントが広げるフォントの可能性

コーポレートフォントの要望に応えるためにはじまったフィットフォントだが、鈴木氏が予想をしなかった方面からのアプローチもあった。2016年1月から放送が開始されたアニメ『ブブキ・ブランキ』に、フィットフォントを使いたいという要望が、日本デザインセンターの有馬トモユキ氏から寄せられたのだ。

「有馬さんから、ちょっと長体かかったようなメカニックな感じの欧文フォントに、ぴったり合わせるためにAXIS フィットフォントを使いたい、という注文をいただいたんです。ややジオメトリックな欧文に対して、AXIS Fontはニュートラルだけどヒューマニスティックな和文フォント。頭で考えると不思議な組み合せなんですけど、ウエイトと字幅を合わせたらすごくきれいなんですよ。長く仕事をやっていて、こういうのはタブーだということを思わないようにしてきたつもりでしたが、僕自身が枠を決めてしまってたんですね。組み合わせる書体の性質が合っているほうがもちろんいいのですが、仮に違ったとしても、ウエイトと字幅をぴったり合わせると、そのちょっとした違和感がむしろいいこともある、ということに気付かせてもらえました。『ブブキ・ブランキ』は僕にとっては非常に勉強になった。有馬さんにお礼を言いたいですね」

フィットフォントは従来と異なるアプローチで、どんな欧文の構造や太さであっても、それにぴたり合う和文がいつでも用意できる。特にAXIS Fontなどはニュートラルだからこそ、フォントの差をうまく吸収して、組み合わせの可能性を広げてくれるのだ。

AXIS Fontを核とした、フィットフォントのバリエーション

図はAXISフィットフォントバリエーションのすべてをマトリクス状に配置したもの。縦軸はウエイト(51段階)、横軸は字幅(21段階)を示す。デザインを保ったまま、文字を変化させていく、こうした技術もまた、タイププロジェ
クトの強みであるといえる


AXIS Fontという、幹から生まれるものたち

「『ブブキ・ブランキ』の例もそうですけど、僕自身が意図していなかった範囲まで知らずにカバーしているというのが、テクノロジーのおもしろさだと思っています。文字というクラシックなものがテクノロジーと出会ったことで、すごく新しい表情をするとき、まだこんなことが可能だったんだなということに気付かされています」こうして、フィットフォントは、タイププロジェクトの根幹をなすAXIS Fontという幹をさらに太くし、多くの枝を伸ばし、さまざまなかたちで実を結んでいく。

写真:弘田充

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